第八話
ホークアイは腕時計を見た。午前10時、開式時刻だ。下を見下ろすと招待客が何人も椅子に腰かけていた。その中にナイトホークも居る。
「ナイトホーク、そっちから俺が見えるか?」
「完璧に偽装出来てるわ」
ホークアイは灰色のスーツを着用した上にツリーバーク迷彩の施された布を被り、目だし帽を被って偽装していた。殆ど光の無い屋根裏の空間では、外から肉眼で彼を捉える事は出来ない。
「よし、分かった……式が終わり次第“サーチ”を始めてくれ」
「了解」
「コルト、そこから“二人”が見えるか?」
「いや、見えないな……。肉眼では捉えられない。サーマルスコープを使用したいが、レンズの反射が心配だ」
「敵のレンズの反射はどうだ?」
「相手さんもスコープの類を使用していないらしい。問題無い筈だが」
「もう一度言うが、その教会は東と西に人の入れるような空間が存在する。西からは式台の方が見える為、敵はそこにアンブッシュする筈と踏んで、コルトにはその東側に陣取って貰った。どうやら予想通りうまくいったようだな」
「赤外線カメラはどうだ?」
「会場内に居る全員を捉えている。“例の装置”にも反応は無い」
「“二人”はどうだ?」
「もうそろそろ終わりだ……。これから退出だな」
花嫁と花婿は式台に背を向け、歩調を揃えて外に向かって歩き始めた。
長椅子に座っていたナイトホークにも、その二人の顔がはっきり見えた。
「嘘でしょ……」
彼女はその二人の顔をファイルで見た事があった。アルヴィス元陸軍大尉と、その婚約者であるジェニーという女性だった。だが、カツラを被って変装している。
その為、高所から“肉眼で”監視しているホークアイには分からないだろう。
「くっ……ホークアイ!」
ナイトホークは意識を集中して念を送った。
「コルト!やったぞ。電磁波を捉えた。座標は長椅子に座っている女の一人を指している」
タイラーはインカムに向かって言った。
「本当か!狙撃手の方はどうなってる?」
コルトは銃を構えて聞いた。
「予想通り、コルトの向かい側の屋根裏に電磁波を捉えた。やはり一階の監視カメラには映らない場所を選んでいたようだ」
タイラーは装置のスイッチを操作しながら応えた。
MSFによると、ドーベルマンを追っている狙撃手は二人組で、その上テレパスであるという事だった。観測手の女性はその上に周囲の敵のアンブッシュ地点を察知する事が出来る、所謂サイキック・ソルジャーだった。
無言で念力によって通信し、察知した敵の場所を狙撃手に伝える。狙撃手はテレパシーで受け取った情報を基に、風向きや距離を計算してその地点に的確に銃弾を撃ち込む。その為、彼らは拡大スコープも双眼鏡も必要としない。それでいて、完璧な暗殺を成し遂げる事が出来る。
だが、彼らにも弱点はあった。
その能力を使うにあたって、頭部から電磁波が発生するのだ。テレパシーを使用している時には既にかなりの電磁波が発生し、観測手の女性、ナイトホークが索敵を行っている時にはさらに大きな電磁波が発生する。
コルトはタイラーと無言で筆談を行って、その電磁波の量と座標を表示する装置を二晩で組み上げた。基になっているのはソリトンレーダーのシステムである。
(ホークアイ!タイラーとアニタじゃないわ!アルヴィスとジェニーよ!)
ドイツ製のセミオートマチック狙撃銃、ワルサーWA2000をバイポッドで支えていたホークアイの脳に、直接声が届いた。
(何だと!?我々の狙撃と同時にフォックスが病院の三人を始末する計画だったんだが)
その時、彼のインカムにフォックスからの通信が入った。
「大変だ!病室が蛻の殻になっている」
「やはりか……どうしてすぐに連絡をよこさなかったんだ」
「電波妨害だ。奴ら、我々の無線の周波数帯を狙って妨害電波を出していた。今は違う周波数帯を使って通信している。周波数帯を知っていたという事は、或いは傍受していたのかもしれない……」
「という事は、我々の計画は……」
「ああ、恐らくはな……」
畜生、とナイトホークは心の中で悪態を吐いた。
「しかし、あのアニタという娘は?」
「よし、アニタ。鐘を鳴らし始めたら、俺が合図をするまで鳴らし続けてくれ。多分すぐ終わる」
「分かったわ」
修道女はいつの間にか鐘の下まで移動し、インカムでタイラーと連絡を取っていた。その声は間違いなくアニタのものだった。
「よし、コルトの腕を信じて装置の電源を入れるぞ。良いな?」
「ああ」
コルトのM700には照準器を塞ぐような形である種のセンサーが取り付けられていた。その装置とタイラーの乗っている車の中の装置とで情報を交換し、敵の狙撃手と思われる電磁波の発信源……つまり敵の頭と射線が合わさるように、インカムを通じて音で狙いをつける仕組みになっている。
そして、コルトの銃にはサプレッサーが取り付けられている。完全に音を消せるものではないが、鐘の鳴る中での射撃なら誰も気付かない筈だ。
「病室内には居ない。何らかの方法で抜けだし、タイラー達に協力している筈だ」
フォックスの声から焦りが感じられた。
「分かった……。フォックス、急いでこっちまで来てくれ。俺達は今すぐここで狙撃を実行する。前後して例の二人が乗った車が出発する筈だから、そいつを無人偵察機でマークしておいてくれ」
「済まない……無人偵察機も全て使用不能だ。そこに配置していたものも全て昨夜のうちに全て撃ち落とされていた。爆発はしていないらしいが、センサー部分を一発で撃ち抜かれていたに違いない。奴らは無人偵察機を無力化して、昨夜のうちに教会に潜入したんだろう」
「つまり、奴らが我々に有利な状況を作り出し、我々をおびき出すというのは……」
「ああ、その会話こそが囮だったんだ。とにかくそちらに急行する」
フォックスはそこで無線を切った。
(ナイトホーク、そういう事だ。奴らはもう既に俺達を撃てる筈だ)
(あの二人は行ってしまった……でも、さっきの話が正しいとすると、タイラーとコルトは一体どこに?)
(分からんが、コルトは恐らくこの教会の中か外で俺を探している筈だ)
(くっ……。今すぐ索敵を始めるわ)
アルとジェニーは客席から歓声が巻き起こる中、教会の玄関に待っていた車に乗り込んだ。
「さて、何処へ行く?」
アルは助手席に座ったジェニーに聞いた。
「寄り道する訳にはいかないわ。真っ直ぐに回収地点へ向かいましょう」
「結婚式当日に行方不明か……まぁいい、さっさと行こう」
アルはエンジンをかけると、カツラを脱いだ。
「全く、タイラーも無茶が好きな奴だ。俺が目覚めるや否や仮死薬を俺の口に突っ込んで、有無を言わさず昏睡状態にするとはね」
「でも、良かったじゃない。こうして退路を確保出来たんだから」
ジェニーもカツラを脱いで後部座席に放り込んだ。
「でも、驚いたわ。タイラーの渡した“弾薬の箱”の裏に書かれたメモ通りにしたら、銃身に蘇生薬が詰め込まれてたんだもの。そして、その後の指示を書き込んだメモ用紙もね。『とにかく作戦の当日まで自然に振る舞え』と最後に大きく書かれていたわ」
「完璧に敵を出し抜いた訳だ。やはり奴はただ者じゃない……」
アルはそう言って、アクセルを踏んだ。
「だから……奴がただ者じゃないから俺達は救われて来たんだろうな」
「さぁ、彼が用意してくれた“楽園への送迎バス”に乗りに行きましょう」
「MSFのヘリか……。タイラーが連絡を取り、彼らが俺達を保護してくれる事になったと言ったな?急ぐとしよう」
鐘が鳴り始めた。タイラーはモニターに表示されている二つの強い電磁波発生源のうち、一階で椅子に座っている方が強まっている事を確認した。
「コルト、奴ら索敵を開始した。急いでくれ」
「ああ……」
コルトの耳には連続して鳴る電子音が聞こえていた。狙いが敵に近づくのに伴って、その電子音の間隔が狭まっていく。丁度標的に斜線が向いたらピーと一つの電子音になって聞こえる筈だ。
「クッ……狙いが定まらん」
音の間隔は狭まったり広がったりして、なかなか一つにならなかった。少しずつ調整するが、それでもまだ定まらない。
(敵を捉えたわ!屋根裏、東……撃って!)
ナイトホークはコルトを捉え、そのイメージをホークアイに送った。ホークアイはそれを受け取り、その通りに銃を向けた。引き金に少しずつ圧力をかけて行く。
(急いで!あなたを狙ってる!)
「何だと?」
ホークアイは思わず口に出した。何故?スコープも使用しておらず、光を反射する物は何一つ露出させていない筈だ。完璧に偽装出来ている筈なのに……。
だが、先ずは敵を撃つ事に集中しようとした。
数秒後、鐘が鳴り終わった。
「アニタ、よく頑張ってくれたな。もう降りて来ていい。裏口から脱出してこの車に乗り込め」
タイラーは一度車から出て、運転席に座っていた。
「分かったわ」
アニタはインカムに返答し、ローブを脱ぎ棄てて階下へと降りて行った。
屋根裏の東側、コルトはその硬い床にべったりと顔をつけていた。右手は床に倒れた銃の上に乗せ、左手は左耳のインカムに当てている。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
彼はその呼吸を安定させようとした。標的から発せられる電磁波が消え、止まった筈の電子音が、まだ頭の中で響いていた。
だが、それも呼吸が落ち着いた頃には消えていた。
インカムからタイラーの声が届いた。
「コルト、よくやった。狙撃手から発せられる電磁波が消えた。奴は死んだよ。裏口に車を停めてあるから降りて来い。アニタはもう乗ってる」
「りょ……了解……」
「コルト……本当によくやった。あんたは凄いよ」
タイラーはそう言って称賛したが、コルトはそうは思わなかった。
単に斜線と敵の頭を合わせるのみという装置で成功したのは、風などの不確定要素を考慮する必要のない室内での狙撃であったからに違いなかった。
もし屋外での狙撃なら完全に相手の方に分があった。相手はこちらの像を捉えて、それを基に風速や距離に応じて調整しながら狙撃する。そうなればこちらに勝算は無い。装置では風速に応じて狙いを調整する事は困難であるからだ。
だから、タイラーとコルトは敵を広い教会という、風の影響を受けない空間におびき寄せる作戦を思いついた。トラップを使用したり、両屋根裏に潜んで接近戦で勝負をつける事も考えたが、タイラーならともかくコルトが格闘戦や接近戦で敵を倒す事は難しいと予想出来た。それに何より、相手に超能力者が付いているというのが問題だった。
そこで二人は、その超能力さえも利用した。
敵から発せられる電磁波を拾って、それを基に狙いをつければ、スコープ等のレンズの反射を捉えられる危険も無く、敵がコルトを狙い始めるタイミングまで掴む事が出来る。MSFからの情報あっての、一石二鳥の作戦だった。
だが、最も重要なのはやはりコルトの腕だった。撃てるようになるのは敵がテレパシーで通信を始めた後で、そして敵狙撃手が撃つより先に引き金を引かなければならない。そして装置も長距離でのテストを行っておらず、ある意味では賭けであるとも言えた。そのプレッシャーの中で成功させる事が出来たのは、やはりコルトの強靭な精神あっての事だった。
尤も、その精神力もすっかり使い切ってしまったが。
「さて、降りるか……」
ライフルはケースに入れたとしても目立ってしまう。
彼は自分が今撃った銃を床に置いた。懐からM19を取り、伏せたまま後ろに下がる。通気口の蓋を外してロープを伝えば、もうそこが出口だ。
階下では“アルとジェニーから”招待された彼らの友人たちが、皆笑いながら帰る支度をしていた。尤も、翌日にはその新婚の二人が何も知らせず彼らの前から消えている事になるのだが。
ただ、その中に一人笑っていない者が居た。まだ25歳ほどの若い女性で、青ざめた顔をしている。
(ホークアイ!ホークアイ!返事をして!)
ナイトホークは必死に念を送っていたが、その相手からの返事は返って来なかった。
(こんなの嫌!ねぇ、返事をしてよ!ホークアイ!)
「こちらフライングフォックス。到着した」
フォックスは教会の屋根に跪き、無線のマイクに向かって話しかけた。しばらくしてナイトホークの声が返って来る。
「こちらナイトホーク」
「ああ、ナイトホーク。ホークアイはどうした?」
ナイトホークは少しの間黙り込んだ後、沈んだ声で言った。
「……やられたわ」
「何だって!?」
フォックスは信じられなかった。全世界で最も高い精度を誇る狙撃チームの射手が死んだ?相手は“ただの”狙撃手の筈だ。しかも特殊部隊の訓練を三年続けたとはいえ、海兵隊等ではなく空軍の出身だ。装備も決して満足ではなかった筈だ。なのにどうして……。
「特殊な装置を使っていたに違いないわ。もしスコープの類を使用していたなら、そのレンズに反射する僅かな光を彼が見逃す筈が無い。詳しい事は分からないけど……」
「とにかく、本部に報告する必要がある。ハウンドに続いてホークアイまでやられたとなると……いや、その前に彼の死体を回収しなければ」
フォックスは動揺を隠せなかった。だが、目の前に居るナイトホークはもっと辛い筈だ。彼女とホークアイは愛し合い、婚約までしていたのだ。それを皮肉な事に結婚式中の教会で無残にも引き裂かれた。もはや涙を流す程度でさえない。
「今夜……」
ナイトホークは虚ろな目で呟いた。
「え?」
フォックスが聞き返す。
「今夜、この教会を襲うわよ。あなたは彼を降ろしてあげて。私は神父を締め上げる。何か情報を持っている筈だし、そうでなくても他の使い方もある」
「本部に報告してからでないと、勝手な行動は危険だ。ハウンドも……」
「うるさいッ!」
ナイトホークがその細い指でフォックスの服の胸を掴んで自分の顔に引き寄せた。
「黙りなさい!それ以上口ごたえすると殺すわよ」
気が付くと、彼女の右手にはスコーピオンと呼ばれるチェコ・スロバキア製の小口径サブマシンガンが握られていた。その銃口がフォックスの股間に突き付けられる。
「それとも、それ以上の苦痛を味あわせてあげようか?」
「……分かった、君に従おう」
その言葉を聞いて、ナイトホークは銃を下ろした。
「銃を向ける相手を間違えてたわね。でも、邪魔するなら容赦しないわ」
フォックスは彼女の顔から眼をそむけた。眼が据わっている……まるで無数の信管を突き刺した爆薬のような精神状態に違いない。下手な事をすると本当に殺されそうだった。
と、彼の胸に悲しみが込み上げて来た。二人目のホークアイに続いて、彼女は三人目の犠牲者となるだろう。もう彼女は正常な思考を失っている。戦闘になれば勝てないだろう。確実な根拠は無かったが、彼の経験上この状態になった人間がまともな状態で帰って来た事は無かった。
「タイラー、コルト。その……」
アニタが助手席で何か言おうとしていた。
「何だ?」
前を向いたままタイラーが応える。
「やっぱり、殺したの?」
「……」
タイラーは返答に困って黙り込んだ。無意識のうちに彼女の父親を撃った感覚がよみがえる。彼女に対して、護身の為とはいえ人を殺したという事実を打ち明けるのは気が重かった。
と、彼の肩に手が置かれた。タイラーは停車用のスペースを見つけ、ウィンカーを出して車を寄せた。エンジンを切って肩に置かれた手を見る。
「コルト……」
「運転を代わる。もう大丈夫だ」
そう言って手を離し、ドアを開けて外に出る。タイラーも溜息を吐きながら車から出て、コルトと入れ替わった。
ドアを閉め、シートベルトを締めながらコルトは口を開いた。
「分かるのは、俺の組んだ装置はおそらく正常に動作して敵を捉えたという事。そしてタイラーは正確に装置を操作し、俺はそれに導かれるままに引き金を引いた。その後装置から射手の反応が消えた。という事だ」
つまり、撃った相手の死体をその目で確認した訳ではないという訳である。しかし、他の事象から考えると、息の根を止める事に成功したと考えるべきだ。それに、コルト自身も“手ごたえ”を感じていた。
「うまく説明出来ないが、相手の命を奪った時に感じる、独特の感覚なんだ。今回のように極限まで集中している時しか感じた事は無いが、だが確かに感じる」
コルトがぎこちなく言った。アニタはよく解らないといった表情で彼の横顔を見ていたが、後部座席でドアにもたれ掛かっているタイラーにはその感覚が理解出来た。
彼自信も敵を殺傷した時に、その命の火を吹き消す感覚。それが生身の人間にとってどれほどの苦痛かは、まだ僅かに震えているコルトの右手を見れば理解出来る。
タイラーの場合は、加えて不完全ながらも周囲の敵を察知する事が出来た。双方とも言葉では説明できない、飽くまでも“感覚”ではあったが……。
「間違いなく俺は奴を殺した。この手で、あの銃で、その装置で……」
コルトはエンジンを始動して言った。
「アニタ、俺は……俺達は人殺しなんだよ。ずっと前から」
3年前の事件を含め、彼の中の戦争に関わる記憶が蘇る。
「行こう。隠れ家に戻ってMSFに新郎新婦の状態を確認したら別の場所に住居を移す。発信機と盗聴器の類は全て解除した。もう紙と鉛筆を持ち歩かなくても済むぞ」
タイラーはそう言ってチョコバーを取り出し、齧り始めた。その眼は遠くを見つめていた。
彼らが住居に戻って来たのは昼過ぎだった。タイラーはさっきまで使っていた装置を車内で解体し、外から見えないように段ボール箱に詰めて外に出していった。無線機や食料品、武器の類を載せるスペースを作る為だ。
コルトは部屋に戻って無線機のスイッチを操作し、MSFとの回線を開いた。
「こちらドーベルマン。聞こえるか?」
「こちらMSF。良好だ」
「例の狙撃手を始末した。そっちの情報が正しければあと二人か」
「ああ、敵は半数を失った。だが、まだ諦めるつもりは無いようだ。どうやらFOX HOUNDとCIAの一部勢力に対して何処かから圧力がかけられているらしい。多分二人だけで作戦に投入するつもりだろう」
「こっちもアルを失った。二人だけなのは俺達も同じだ。いや、向こうの方に分があるかもしれない。俺達より5歳は若いようだ」
「もう一人でも減らせれば……と?」
「それだけでは十分でない。我々も一人か二人増援が欲しい」
「手配済みだ。日本の元自衛官のMSF協力員が一人作戦に参加する。かの国に渡ったら合流してくれ」
「了解、タイラーにも伝えておく」
コルトはそこで一呼吸置いて、コーヒーを啜った。
「アルとジェニーはどうだ?」
「しばらくはMSFで保護し、ほとぼりが冷めたらコスタリカで暮らして貰う事になるな。あそこはMSF協力者も多く残ってる。彼らの身の安全は確保できる筈だ」
「分かった、ありがとう。全てが終わったら会いに行く」
「ああ、その時は手配するよ」
「それでは通信を終了する。次回の連絡は周波数を変更して行う」
そう言ってコルトはスイッチを切った。と、食品をまとめていたアニタが覗いていたのに気が付いた。
「アルもジェニーも無事に着いたそうだ。事態が落ち着いたら皆で会いに行こう」
「そう……良かった」
本当ならアニタも一緒に保護して貰いたかったが、作戦の都合上アニタを二人と一緒に退場させるのには無理があった為、やむを得ず日本に渡るまでは共に過ごす事になった。
「さぁ、急ごう。何が起こるか分からない」
コルトはそう言って無線機のコードを外し始めた。
「ああ、そうだ。あの神父に金を払わなければ……次の住居に着いたら連絡するか」