第五話
「すまないな、家まで乗せてもらって」
コルトはアルの軽自動車から降り、窓越しに礼を言った。
「いや、いいんだ。ジェニーを送るついでだったし。尤も、運転はコルトの方が上手だったろうけどね」
「快適だったよ。発車とシフトチェンジの度に車体が揺れまくるのと、しょっちゅうエンスト起こすのと、急ブレーキばかりなのを除けばね。何より後部座席で寝ていられるのが有難かった」
「あー……退職金もある事だし、オートマチック車に変えようかなぁ」
「そうなったらこのダイハツ・ミラは俺に譲ってくれよ。軽量で加速しやすく、低燃費なんだ」
「日本製だ。その前にタイラーが飛び付いて来るんじゃないか?」
アルは「DAIHATSU」と刻印された部分を指でなぞった。
「いや、奴はアル以上にクラッチ操作が下手だから、それは無い」
「そいつは……」
「車を運転させればギアを潰し、オートバイを運転させればシフトペダルの操作方法を逆に覚え……。スーパーカブでも高速からニュートラルを経由して一速に入れて吹っ飛びかけてた。改善しろと日本語で手紙を書いてホンダ社まで送りつけてたな……。奴は、もう数十年すれば絶対改善されると言ってた。やっと慣れた所だったのになぁ」
コルトの家の前を通る道路から妙な音が聞こえて来た。車の走る音には違いなかったが。
「そう、あんな感じだ。あ、今エンストしたな。ああ、掛け直した……ん、またか」
コルトはそう言って道路から聞こえる音に耳を澄ませていた。
「流石、乗り物はコルトに任せるしか無さそうだな」
アルはそう言ってシートにもたれた。
「待て、アル。こっちに近づいて来てるぞ……」
どうやらコルトの家に急接近してきているようだった。音がどんどん近付いて来ている。直後、彼らは自動車がコルトの家の門に側面をこすりつけながら、庭に入って来るのを見た。
「おい!止まれ!ぶつかるぞ!」
アルが窓を開いて怒鳴る。急ブレーキの甲高い音が聞こえ、アルの車のすぐ近くまで来てやっと車が止まった。
「あー、すまない。“現地調達”した車で、しかも運悪くマニュアルだったんだ。おかげで植え込みに突っ込むは、河に飛び込みかけるは、大変だった。妙な音がしてる。爆発するかもな」
タイラーは喋りながらドアを開け、車から出て来た。
「タイラー!一体どうしたんだ!車の運転はともかく……どうして病院から出て来たんだ?」
コルトがタイラーに詰め寄って言った。
「襲われたんだよ、恐らくCIAの回し者だ。俺達を殺しに来た。相応しい得物を持ってな」
「俺“達”?」
アルが車から出て言った。
「危ないところだったが、彼女もどうにか助け出した。もう少し遅かったら俺と一緒に消されてたところだ」
「何だって?彼女を?無事なのか!?」
コルトは慌てて車に寄った。タイラーの運転なら、大の男でも身が持たない。もう17歳とはいえ、少女が乗ったとしたら……
「ああ、無事だ。命に別状は無い」
タイラーは助手席のドアを開けながら言った。ドアは歪み、軋みながら通常の半分ほどだけ開いた。
「ただ、この通り伸びてしまってる」
「あー……」
コルトは苦しそうな顔をしたアニタを見た。無理も無い。車の様子からその運転の荒々しさが伺える。
「そうだ、コルト。しばらく泊めてくれ。俺と、彼女も一緒に」
「俺の家にはレディーを眠らせるようなお上品なベッドは無いぞ?」
「寝袋を二つ買って来た。俺達はこれでいい」
「いや、場所はどうにかなっても……男と同じ部屋で寝かせるのか?」
コルトの部屋は二人以上で暮らすには狭く、彼の自室を兼ねた寝室の他には、トイレ付のバスルームと簡素な台所しか無かった。
「頼む。他に安全な居場所が無いんだ」
タイラーはそう言って頭を下げた。
「うーん……まだ頑張れる年の男二人と寝るのも安全とは言えないだろうが……仕方ないか。命を狙われるよりは良いだろう」
「……助かる」
「さぁ、アニタはまだ伸びてるな。車はそこに置いといてくれ。俺が明朝にでも処分しに行く」
「あー、俺は帰ってもいいな?」
アルはそう言って車のドアに手を掛けた。
「ジェニーから電話がかかってくるかもしれない。家に居ないと」
「ああ、すまない。用があったら電話する。じゃあな、気をつけて」
「気をつけて……か。事故を起こさない自信はちょっと無いが、まあおやすみ」
そう言ってアルは車に乗り、ややぎこちない運転で去って行った。
「よし、鍵を開けるから彼女を運びこんでくれ」
「分かった」
タイラーはアニタの体を抱え上げ、コルトに続いて部屋の中に入って行った。
次の日の朝、タイラーが目を覚ますとコルトはもう出かけていた。辺りを見回すと、車を処理しに行くという旨を書いた置手紙があった。
反対側に目を移すと、アニタがまだ寝息を立てて眠っている。まだ起こさないでおこう。眠れるうちに眠っていた方が良い。
タイラーは台所の戸棚を開け、パンとソーセージを取り出し、包丁で乱雑に切り分け、テーブルの上に直に置いた。そして寝る前に使って汚れたカップにポットの中のコーヒーを注いだ。
「タイラー……?」
突然後ろから聞こえた声に、テーブルの包丁を叩くように取って身構え、振りむいた。いつでも飛びかかれるような姿勢だった。
「ちょっと……!私よ」
声の主はアニタだった。タイラーは慌てて構えを解き、包丁を置いた。動揺を隠そうとソーセージの切れ端を取って齧る。誤って指を噛み、少し血が滲んだ。
「あー、すまない。いろいろあって神経過敏になってるんだ。ああ、パンとソーセージがあるが……」
「えっと……その……」
アニタの視線はパンとソーセージが乗っているテーブルに向いていた。タイラーには気にならなかったが、だいぶ埃が積もり、人の髪の毛もいくつか落ちていた。
「あー、そうか。よし、少し待っててくれ。そうだな……テーブルを拭く間にクローゼットから適当なズボンでも借りて履いてくれ。目のやり場に困る」
タイラーはアニタの下半身から務めて目を離していた。彼女は上半身のTシャツの他には、コルトが渋々貸した男性用下着しか履いていなかった。
「あ……」
アニタは急に顔を赤らめ、寝室に戻って行った。
「ふぅ……」
タイラーは深くため息を吐くと、布巾を取るついでにトースターのスイッチを入れた。コルトが昨夜買って来た物で、二枚同時に焼く事の出来るタイプだった。
「バターは無いが、トーストなら少しは喜んで貰えるだろうか……いや、腹を壊されるとまずいんだ。トイレは一つしか無いからな。コーヒーはもう一度沸かそう。ああ、カップを洗わないと……」
タイラーは独り事を言いながら朝食の支度を進めた。
その時、コルトはアルと別々の車で間近の廃車処理場で用事を済ませていた。そして、今やタイラーが“現地調達”した車はスクラップとなっていた。
「さて、アル。お前は一杯やってもいいぞ。俺が運転するからな」
コルトはそう言ってアルからキーを奪い取り、ミラの運転席に乗り込んだ。
「あー、いや大人しくしとくよ。今日はジェニーが昼食を振舞ってくれる。コルトもどうだ?」
「君の話によると、彼女の料理の腕は、それはもう大層なものらしいじゃないか。俺なんかには上等すぎるね、うん。遠慮しとくよ」
「それは残念だ。慣れると美味いんだがな」
アルはそう言って腕を組んだ。
「美味いと言うが……レーションとどっちが美味い?」
「レーションは味気ない。彼女の料理はもっと……いわば芸術的で……」
「まあいい、行くぞ」
コルトはそう言ってギアを入れ、滑らかに走り出した。
「この車、こんなにスムーズに走るのか?コルト」
「ああ、オートマチックほど早くは出来ないが、優しくやればどうにでもなるもんだ」
「コルト、しばらくこの車預かってくれ。もうやるよ」
アルはそう言ってシートを倒し、日本車のカタログを広げた。
「どうだ?」
タイラーはやや焦げたトーストを齧るアニタに聞いた。
「ちょっとカビてる気がする……それにちょっと焼き過ぎてるし……」
「あー、だろうなぁ……。そうだ、さっきネズミを捕まえたんだが、これを焼こうか?」
そう言ってぐったりしたネズミを出す。
「いや、それ……ネズミは……」
「美味いんだぞ?俺はまだワニの方が好きだが」
「ちょっとトイレに行って来ても良い……?」
「仕方ない。コルトが帰って来たら何処かへ食べに連れて行って貰おう」
その時、部屋のドアが開いた。発作的にタイラーの手がパンとソーセージを切り分けていた包丁に伸びる。
「おいおい、俺だよ」
入って来たのはコルトだった。
「お、美味そうだな。少し頂こう」
そう言ってタイラーの焼いたパンとソーセージを口に入れる。
「どうだ?」
「うぇ……パンはカビかけの焼き過ぎだし、ソーセージは腐りかけてる。とても人間の食いものじゃ……ああ、すまない」
コルトはそこまで言って、項垂れたタイラーに気が付いた。
「いや、いいんだ。それより、どこかへ食べに行ってくれないか?俺はこのカビかけのパンと腐りかけのソーセージで腹を満たしたが、アニタはまだ何も食べてない」
「分かった、車を出そう」
「あと、俺は途中で降ろしてくれ。用事がある」
「分かった。じゃあ早速着替えて……ん?」
コルトは自分のジーンズを履いたアニタに気が付いた。
「ついでに洋服店にも寄って行くか。もっと似合う服を探してみよう」
数十分後、彼らは田舎町の銀行までたどり着いていた。白い車のドアを開け、助手席からタイラーが降りる。
「それじゃあ、午後三時にここで待ち合わせよう。俺はここで口座を確認してから他の用事を済ませておく」
「他の用事?」
コルトが窓越しに聞く。
「弾だ。拳銃弾をいくらか買っておく」
「また武器か……まあいい。アニタ、助手席に座れよ」
「ねぇ、タイラー……」
アニタは車から出てタイラーの胸に触れた。
「何だ……?」
「そんなに怖い顔しないで。ここは戦場じゃないんでしょう?」
「ああ……すまない、そうだったな」
タイラーは微笑んで見せ、アニタの手を自分の胸からどけた。
「不安にさせてたかな?さあ、ゆっくり楽しんで来てくれ」
アニタは少し不安そうな顔をして助手席に座った。タイラーはそのドアを閉め、彼女らに向かって手を振った。
車は滑らかに走り出し、そしてすぐに去って行った。
「悪いが……ここは戦場だよ。それも、敵が何処に居るか、誰が敵なのかさえ分からない泥沼化した戦場だ」
タイラーはそう呟いて、銀行に入って行った。
「ん?タイラーじゃないか」
その声の方を振り向くと、アルが居た。
「アルも来てたのか……もう口座は確認したのか?」
「もしかして、タイラーも俺と同じ心配を?」
アルは通帳を出しながら、タイラーの目を見て言った。
「ああ、恐らくはな」
「そうか、だったら心遣い無く話せる」
アルは通帳を広げ、タイラーに見せた。タイラーはそこに書かれている数字に目を向けた。ああ、やはりだ。
「陸軍から退職金として多額の振込がある。つまり、俺達は軍からも……」
「見捨てられた訳か。だが、その次に記録されている振込は何だ?」
「そう、これなんだ。名義人は“Jhon Do(名無しの権兵衛)”となっている。そして、備考には『作戦現場への旅費と滞在費、武装に必要な費用』と書かれている……“ドーベルマン”宛てにな」
タイラーは別の紙に書かれたその文章を手に取った。不自然な場所で改行とスペースが入れられている。だが、すぐにそこに隠された差出人を探りだした。
「上の三行の一文字目はM・S・F。あの傭兵部隊の名だ。そして、一行開けられている部分までの文字数を数えると……」
「まさか、周波数か?野外潜入作戦用無線機の」
「恐らくはな。コルトに見て貰ったらすぐに分かるだろう」
タイラーはそう言って、その紙をアルに返した。
「今日は例の婚約者との待ち合わせじゃないのか?」
「いや、今日は空いてる」
「それなら良い。今日はコルトが迎えに来る。一緒に車に乗ってコルトの家まで来てくれ。三人で決める必要がある」
「分かった」
タイラーとアルはそう言って、銀行から出てベンチに座った。
「参ったな……としか言えない」
アルが項垂れて言った。その横でタイラーは背もたれに身を委ねて、空を向いて目を閉じた。だが、首に殺気を感じてすぐに顎を引いた。
「誰かに狙われている気がする……」
そう言って周りを見渡すが、武器を持った人影は見当たらない。
「タイラー、こんな市街地でまさか狙撃されるとでも……」
そう言い終わる前に、アルは自分の胸に熱さを感じ、そして意識が沈んで行くのを感じた。視界が赤く、そして黒くなっていった。
「くっ!」
タイラーは急いでアルの襟首を掴み、弾が飛んで来た方向から隠れられる壁まで移動した。飛んで来た方向と言っても、アルの体のどこに刺さってどこから抜けたかを見て推測しただけに過ぎなかった。決して超長距離からの狙撃ではなかっただろう。まだ俺達は奴の射程内に居る。
「アル!大丈夫か」
傷口を診ながら、タイラーはアルの耳元で叫んだ。弾は貫通していたが、出血が多い。恐らく急所は外れているだろうが、危険な状態だ。
「誰か!誰か救急車を!そこのあなた!救急車を呼んで下さい!」
タイラーは丁度道路を通っていた初老の男を捕まえて指示した。男は目を丸くして銀行内の電話ボックスに駆け込んだ。
「しっかりしろ!アル!」
声をかけながらアルのポケットからハンカチを取り出し、傷口に押し込んで上から圧迫した。治療キットがあればもう少し高度な応急処置が出来たが、今の状況ではこれが最善だった。
「アル!アル!」
「騒ぎ始めたか……やむを得ん」
ビルの屋上で灰色のスーツを着た男がゆっくりとライフルを肩から外し、慣れた動作でケースに収めた。
「こちらホークアイ。一名は狙撃したが、死亡は確認していない。もう一名の狙撃は騒ぎが大きくなっている為危険と判断。撤退する」
ホークアイと名乗った男がヘッドセットに向かってそう告げると、すぐに返答が来た。
「直ちに本拠まで撤退せよ。フライングフォックスとアイアンハウンドがそちらに着く頃合いだ。合流を急げ」
「了解」
ホークアイはそう答えて、ヘッドセットを外してポケットに戻した。そして堂々とエレベーターに乗り、階下へと降りて行った。地上で起こっている騒ぎを、まるで知りもしないかのように。
数時間後、タイラーと待ち合わせた場所にコルト達はたどり着いていた。だが、立ち入りを制限するテープが張られ、その外側に人が押し寄せている。警察の制服を着た者も居た。
その中で、石段に腰かけてぐったりと項垂れているタイラーの姿があった。
「ちょっと待ってろ」
そうアニタに言って、コルトは急いで車から出てタイラーの方に走り寄った。
「タイラー!一体何があったんだ?」
「アルがやられた……。狙撃だ」
タイラーは顔だけをコルトに向け、力無く応えた。
「何だって?」
「弾は貫通したが、内臓をやられてる。助かるかどうかは分からん」
「そんな……アルが……」
コルトの顔が青ざめた。
「さっきアルの婚約者……そう、ジェニーに連絡した。アルの緊急手術が終わるまで病院で待つそうだ」
「じゃあ、俺達も……」
「ああ、車に乗せてくれ」
「待ってろ、すぐにここまで持って来る……」
コルトはそう言って、車の方に駆け出そうとした。
「待て、もう一つ重要な事が……」
タイラーは彼を背中から呼び止めた。
「何だ?」
「いや……着いてから話す」
病院へは30分と掛からずに到着した。三人で救急病棟の待合室に入ると、ジェニーが会釈して来た。
「ジェニー……アルの容体は……」
タイラーが聞いた。
「今夜が山だそうよ……。でも、すぐには元通りにならない。奇跡的に肺を外してたけど、他の臓器がズタズタにされてるって先生が……兵士としての生き方はもう……」
ジェニーはそこまで言って顔を伏せた。タイラーの傍からアニタが出て、彼女の肩を抱いて椅子に座らせた。
「タイラー……」
アニタはタイラーの目を見て言った。
「ああ、分かってる。コルト、少し外に出よう」
裏口から外に出て、二人は灰皿の傍に立った。
「タイラー、まさかアルは奴らに……」
「いや、違う。MSFは俺達に協力を要請して来た。もし脅しならチームの一人に対して兵士生命を断つような傷を与えたりはしないだろう。もっと別の……いや、どこかは分からないが」
「……煙草を吸ってもいいか?」
コルトはため息を吐いて言った。
「ああ、遠慮するな」
「すまない」
コルトは紙巻き煙草を取り出して銜え、火をつけた。そして一度吸ってから続けた。
「アルは……もう駄目なのか」
「彼は十分戦った。もう解放されても良いような頃合いだ。それに、ジェニーも居る。彼は彼なりの幸せを手に入れるだろう。心配するのは、今夜を乗り越えられるかどうかだけで良い」
「そうだな……」
コルトは灰皿の中に煙草を放りこんだ。
「よし、じゃあこれからどうするか決めよう」
「さっきも言ったとおり、例の傭兵部隊、MSFから連絡があった。俺達に協力を要請している。陸軍からは解雇された。選択肢は多くない」
「傭兵部隊か……。しばらく身を守れるかもしれないな」
「だが、その前にやる事がある」
タイラーはコルトの目を見据えた。
「アルを撃った奴を排除する。標的が消えていない以上、まだ近くに居るだろう。それに、俺の推測が正しければ奴は他にも俺とコルトを消そうとしている筈だ」
「しかし、そいつに関する情報はあるのか?」
「MSFへの協力と引き換えに、前払い分として情報を要求する」
「なるほど、名案だ」
コルトはそう言って、下を向いた。そして、火の消えた煙草をふと見た。
「なぁ、タイラー。もし俺達の身の安全が確保出来たら、その時になったら、俺も戦いの世界から離れてもいいかな……?」
タイラーはそう言ったコルトの顔を見返した。
「どうしたんだ……いきなり」
コルトの指が二本目の煙草を取り出そうとするも、震えてうまくいかないのが見えた。
「怖くなったんだ……。いつか死ぬのは分かってた。だが、いつも近くに居た奴がこんな事になって……。奴はまるで不死身のようだったのに。降下地点で降ろして、数時間後に回収地点に迎えに行ったら必ず奴だけは生き残ってた。そんな奴がこんな……なら、俺は……」
コルトは灰皿の脇に座り込んだ。タイラーはその肩に手を乗せた。
「分かった。もし俺達を追っている組織をうまく回避出来たら、いつでも足を洗っていい。だが、それまでは生き延びる為にも戦ってくれ。いいな?」
「ああ……」
「冷たいコーヒーでも買って来る。ここで一服しててくれ」
タイラーはそう言って財布を取り出すと、露天商のコーヒーショップに歩いて行った。
古びたアパートのドアを開いて、男はすぐに拳銃を抜いた。それを別の男の声がなだめる。
「ホークアイ、俺だ。敵じゃない」
「ああ、分かってる」
ホークアイはすぐに銃を収め、部屋の中に入って行った。
「アイアンハウンド。フライングフォックスはどうした?」
「さぁ、分からない。だが、俺達の話は聞いている筈だ。それに、位置と距離も正確に把握している。ソナーを用いた最新式の暗視装置を使ってな」
アイアンハウンドはそう応えると、ソファーから立ちあがって右手を差し出した。
「久し振りじゃないか、ホークアイ。だが、この任務がお前と組む最後の任務だというのが残念だ」
ホークアイは一瞬躊躇して右手を差し出した。
「右手を預けられるのはお前とフライングフォックス、あと相棒だけだ。これが終わったら寂しくなるよ」
「しかし躊躇しているようだったな?だがお前は最高の狙撃手だ。少なくとも、この作戦が終わるまでは右手を大事にしてくれよ」
「ああ、勿論だ」
ホークアイはそう言って、狙撃銃の入ったケースを置いた。そして中身を取り出し、分解して掃除を始めた。
それを尻目に、アイアンハウンドはソファーに寝転んだ。