第十八話
「蒼輔!」
「増槽投棄、エンゲージ!タイラー、舌を噛むなよ!」
コルトはそう言ってレーダーを確認した。今度は敵が映っている。翼を広げて高機動戦闘に備えたのだろう。
「なぜ俺の名を知っている」
敵機から通信が入る。
「お前の奥さんに会った。彼女が、皐月があんたの帰りを待っている。戦闘を中止しろ」
コルトが慌ただしく周りを見渡しながら、そう言った。
「もう後戻りは出来ん。俺が下手な動きを見せれば、あいつは殺されるだろう。それに、俺は核の無い世界を実現する事が出来る。あいつや、子供たちの為にも……」
「馬鹿な!核が消えれば大戦を抑止するものが無くなる!それに、それまでの攻撃で一体何人死ぬか……」
タイラーが反論するのを遮って、蒼輔は叫んだ。
「黙れ!必要な犠牲だ。禍々しい兵器を地上から抹殺する為の!」
敵が後方、こちらよりやや高高度についた。ロックオン警報、間もなくミサイルアラート。スロットルを押しこみ、アフターバーナー点火。ミサイルが迫って来たところでスロットルを戻し、急旋回。ミサイルは追い切れずに、あさっての方向へ飛んで行った。しかし、敵はまだすぐ後ろについて来ている。
またスロットルを押しこみ、ミリタリー出力で加速する。後方からは依然として前進翼を広げた、凶暴な顔が迫って来ている。
「タイラー、頭をヘッドレストに押し付けてろ!」
「うう……」
タイラーは言われた通りにしたが、それでも慣れない加速Gに身体を圧迫される。ここから急旋回という事もあるのだろうか?タイラーは覚悟を決めなければならなかった。
敵機は同じ速度で迫って来ている。コルトはスロットルをアイドルへ戻し、エアブレーキを開いた。急減速し、蒼輔機がすぐ横まで飛び出した。が、そこで同じ速度にまで減速。
「クソッ!」
コルトはさらに減速した。失速寸前のところで、敵が前に出る。コルトはラダーを蹴り、ピッチアップしながら機関砲弾をばら撒いた。敵はバレルロールで回避したが、そのうち数発が翼端に命中、一発がコックピット付近を引き裂いた。が、確認するまでにファントムUの藍色の翼は、風を手の内から逃してしまった。機体が傾いてスピンに入ろうとするのを感じ取って、コルトは反対方向のラダーを蹴ったが、間に合わず。スピンに陥る。
慌ててドラグシュートを展開、機首を真下に向け、スロットル出力を上げて速度を上げて失速状態から回復する。海面に激突する寸前で水平飛行に戻り、再びレーダーに目を向ける。
蒼輔は無茶とも言える敵の行動を目の当たりにして、一瞬動揺した。そして間もなく、翼の油圧が異常である事と、全方位から光が差していたのが、少しずつ後ろから暗くなっていくのに気が付いた。カメラがやられたようだ。
「緊急事態。全方位監視システム、パージ。主翼先端部、パージ」
そう言っていくつかのスイッチを操作すると、彼の頭上に前後からキャノピーガラスが伸び、やや前方で張り合わされた。眼下にはディスプレイが三つ展開され、彼の体を覆っていた薄いエアバッグのようなものは、しぼんでシート下に格納された。そして前方、キャノピーグラスの内側に広いHUDが飛び出した。そして、間もなく主翼先端が切り離され、頭上の全方位モニターが吹き飛んだ。
「まだだ、まだこちらが優位だ!」
機のレーダーは再びF4Eを捉えた。
コルトは、敵機が主翼先端と、キャノピー付近のパーツを捨てたのを確認した。そして、すぐにこちらの位置を把握して向かって来る。そして、そのすぐ後方には、異形の空母。
「あれだ!」
タイラーはそれを見て叫んだ。通常の空母と比べて巨大で、そして艦橋が飛び出していない。艦の側面に広がっているのは、潜水時に滑走路を守るためのカバーなのだろう。尤も、潜水は不能となっているそうだが。
「ジャガーノートだ!」
コルトはその声を耳にしながらも、前方に目を見張った。蒼輔機が真正面からこちらに突っ込んで来ている。コルトは操縦桿を前に倒し、ピッチダウンして何とか正面衝突を避けた。そして、そのままの高度で速度を落とす。ジャガーノートはすぐそこに迫っている。
「タイラー、ベイルアウトしろ!チャンスは今しか無い!」
コルトは後ろを振り向いてそう叫んだ。
「だが、しかし……」
タイラーはフェイスカーテンハンドルに手を伸ばしたものの、一瞬躊躇した。ベトナムで、フライトオフィサが脱出した結果、前席のキャノピーが飛ばず、パイロットが機と共に落ちたという噂を聞いた。もしここでハンドルを引けば……。
だが、コルトには少しも恐れた様子は無かった。
「俺は大丈夫だ!」
その言葉を聞いて、タイラーは決意した。
「分かった、先に行く!」
ハンドルを引くと同時に、彼の体はロケットモーターによって上空に打ち上げられた。間もなくパラシュートが開き、座席から身体が離れる。しかし、彼を撃ちあげたコルトの機は無傷では済まなかった。射出の反動で機体がやや下方に押され、キャノピーを片方失ったせいで空力特性がやや劣化した。そして、もしかしたらコルトの射出座席にも不具合が出たかもしれない。しかし蒼輔は彼に考える余裕を与えず、落下してゆくパラシュートに向かって機首をもたげていた。
「お前の相手はこの俺だ!」
コルトは急旋回して、二発のミサイルを敵機とタイラーとの間に撃ちこんだ。蒼輔が急旋回したところで、もう一発を彼の機の噴射炎目掛けて撃ち込む。機はまるで巨大な翼を広げるかのように大量のフレアを射出し、急旋回によってミサイルを回避した。
その間にタイラーは空母の甲板上に着地し、風に引っ張られて海に飛び込む前に大きなバックルを引いてパラシュートを切り離した。
大慌てでドアから飛び出してきた兵士達を、ホルスターからFNハイパワー拳銃を抜いて連射し、撃ち倒す。次の増援が出て来る前に、彼はそのドアを抜けて艦内に押し入った。
「クソッ……侵入を許したか!」
追尾されながら、蒼輔が悪態を吐く。後にはコルトの、藍色のF4EファントムUが付いて来ている。
「奴はお前の母艦に侵入したぞ!奴が押し入ったらおしまいだ、諦めろ!」
「黙れ!お前なんかに邪魔されてたまるか!」
蒼輔はそう怒鳴ってスロットル出力を最大まで上げた。翼のもげた鳩(ドーヴ)が唸りを上げて、急上昇する。
コルトも急上昇を試みるが、すぐに追い付けないと悟った。操縦桿を引き、機首が真上を向いた所でロックオン、最後に残ったサイドワインダーを発射。そしてループを続け、下降の勢いで速度を上げた。蒼輔機は雲を抜けたようだが、後ろを振り向くと光が広がるのを確認する事が出来た。サイドワインダーの爆発でなければ、蒼輔機の射出したフレアだ。つまり、その位置に蒼輔が居る。コルトはスロットルをMAX・アフターバーナーに押し込み、今度こそ急上昇した。加速Gが体を圧迫し、吹き飛んだ後席のキャノピーから風が吹き込んでくる。雲を抜けたところでピッチアップ、背面飛行から180度ロールして水平飛行へ。黒い影は思っていた通りの位置にあった。
「ウオオオオ!」
蒼輔が雄たけびと共にその場で半宙返りを行って機首をコルトに向け、ウェポンベイを開いた。四発のスパローミサイルと、フェニックスが二発、サイドワインダーが一発。その全てを同時に、コルトのファントムUに向けて撃ち込んだ。ファントムUはバレルロールを行いながら、ほぼまっすぐに蒼輔に向かって突っ込んで来る。蒼輔の指がトリガーに触れる。高速で真正面から撃ち合うのだから、目で見て狙っている暇など無い。勘が頼りだ。蒼輔はトリガーを引き絞った。
コルトは蒼輔の狙いを悟り、その勝負を受けて立つ事にした。スロットルを押し込んだまま、トリガーに指を掛ける。ラダーで進路を微調整しながら、敵のコクピットに見当をつける。ヘッドオンで撃ち合うというのは初めての事ではない。目の前に居るのはミグではないが、それでも負けるわけにはいかない。目を見開き、HUD越しに敵の位置を把握する。高速で接近している筈が、とてもゆっくり近づいているように感じた。全身の毛が逆立ち、心臓の鼓動が速くなる。にじみ出る汗が目に入り込んだが、無視した。
射程距離内、コルトの指に力が加わった。
「まだ終わってない。諦めちゃだめだ」
俺は確かにそう言った。赤いマフラー、少し生気を取り戻した皐月の顔。
「帰って来たら、これを渡すんだろう?」
彼女を、皐月をこれ以上苦しませる訳には……
藍色の破片が、太陽の光を照り返しながら散らばった。機関砲弾は翼にいくつか穴を開け、或いはエアインテークに入り込んでは跳ね回って薄い所へ抜けて行った。そのうち数発はコックピットの中で跳ね回った。
「……ぜだ!…………った!」
頭に衝撃を受け、意識が遠くなっていたが、何とか力を込めて操縦桿を引き、機を水平飛行に戻した。バイザーを下ろしていた筈だが、目の前には何も無い。と、頬にわずかながら痛みを感じる。足元には破片。どうやら飛び回った破片がヘルメットに当たり、バイザーを割ってしまったようだ。HMDも同じく砕け散っている。奇跡的に、頬の傷以外には特に怪我を負っていない。
「なぜ撃たなかったんだ!」
蒼輔の怒りに満ちた声が無線を通じて聞こえる。気がつけば、酸素マスクのチューブも被弾していた。コルトはマスクを外し、計器類を確認した。左のエンジンが異常を示している。左のスロットルを戻し、そしてエンジンを停止した。火が出る前に気づいて良かった。蒼輔の機はすぐ後ろについて来ている。
「答えろ!なぜだ、コルト!聞こえてるんだろ、ドーベルマン!」
「お前の帰りを待っている奴が居る。燃料が続く限り日本に向けて飛び、ベイルアウトしろ。皐月の事なら心配するな。陽兵を信じろ」
「だが……俺はお前の敵だろう?」
蒼輔はそう言った。
「俺の敵は他に居る。俺には倒すべき人間が居るが、お前には愛すべき人間が居る。俺には帰る場所など無いが、お前には帰らなければならない家族が居る。良いか、蒼輔。絶対に帰るんだ」
そう言って、コルトは旋回した。目指すは敵の空母。
「義兄さん、その機体の解析が完了しました。自爆装置は取り付けられていません」
蒼輔の元に、陽兵からの通信が入った。
「帰ってきてください、義兄さん。姉さんが待ってます」
蒼輔は目が潤んでいるのに気が付いた。そうか、俺は帰れたのか。
「……了解。直ちに帰頭する」
蒼輔機は旋回し、進路を陸に向けた。そして、まだ爆弾を抱えたまま空母に向かっているコルトに通信を送る。
「すまなかった、コルト。グッドラック、ドーベルマン」
「バレたようだな、まぁ落ち着いて考えればすぐに分かる事だが」
パイロットスーツを着込んだネイラーが、次々と応答を断つ監視モニターを睨みつけているモーガンに言った。
「わざわざ機体の重量を増すような機構は取りつけるだけ無駄だ。それに、そんなものを取り付けて誤爆でもすれば、パァ!だからな」
「侵入者……奴だ」
モーガンの額から汗が垂れた。机の上に散らばった書類に落ち、インクを滲ませていく。
「監視システムに破壊工作を受けたようだ。監視モニターが一つも応答しなくなったよ。だが、甲板から侵入されたという報告以外、何も通知が無い。奴は一体何処に居るんだ?」
彼は頭を抱えた。だが、ネイラーは一つ気が付いた事があった。
「変装していたとすれば、どうだ?」
「馬鹿な……!」
モーガンは机を叩いて立ち上がったが、ネイラーは彼を制して続けた。
「こっそり近付いて敵の首をへし折るか、或いは締め落とすぐらい、お前の話通りの男なら簡単だろう。その兵士から服と銃を奪ってIDカードをぶら下げればどうだ?味方の中に敵が紛れ込んでいるとは、誰も思うまい」
「やぁ、今日も油臭いな」
そう言って陽気な警備兵が整備兵とあいさつを交わし、そこに駐機されている機に近づいた。機には小さく「DOVE」と記されている。
「ちょっと、困りますよ……」
そう言って整備兵の一人が警備兵の肩を叩いた。警備兵は少し驚いた様子で、振りかえった。
「ああ、すまない。いやぁ、イカすマシンだと思ってね」
そう言って、整備兵を振り切ってラダーを上り、座席に座りこむ。
「ん〜、乗ってみるとそうでもないな。っと、悪ィ悪ィ」
警備兵は満足気な表情で機体を降り、整備兵から離れようとした。と、整備兵が何かに気付いた。IDカードの写真と実際の顔が違う。
「待て、あんた……」
言い終わるまでに警備兵はVz61短機関銃のグリップで、整備兵の顔面を殴りつけた。相手がひるんだ隙にその体を地面に押し付け、後頭部を殴りつける。整備兵は口を開く事は無かった。兵士が彼の首に触れて脈を測ると、間違いなく正常に鼓動していた。死んではいないようだ。事の最中に目を覚まされれば具合が悪いが、死人を出すのはなるだけ避けた方が良いだろう。
しばらくすると、機のコックピットから煙が上がった。警備兵はそれを確認して、大声で怒鳴り散らした。
「火事だ!破壊工作かもしれんぞ!」
その声に整備兵達が大急ぎでその場を離れる。警報が鳴り響き、間もなく消火班と増援の警備兵がやって来るだろう。それが、ただ発煙筒が焚かれただけの話なのに。警備兵はベレー帽を脱ぎ、HMDを装着した。
「こちらタイラー。敵格納庫まで侵入。陽兵、どうすればいい?」
タイラーの問いに、傭兵はすぐに答えた。
「爆弾の類はありますか?」
「C4爆弾をかっぱらって来た。今すぐ設置する」
タイラーはその粘土のような爆弾にリモート式信管を埋め込んで、そのDOVEと呼ばれる機体に優先的に取り付けた。が、全てを設置するまでに増援が着た。
「撃て!あそこだ!」
.32ACP弾が周りに着弾する。タイラーは全てを設置する事を諦め残った塊を足元に落とした。そして機の影から出て十数発を連射した。散開しようとしていた敵部隊が出鼻をくじかれ、通路に戻って行く。タイラーは猛ダッシュでそこに駆け込み、後退しようとしている敵のうち、こちらに銃を向けていた二人に残った銃弾を全てばら撒き、Vz61サブマシンガンを投げ捨て、通路の中で固まっている敵の懐に飛び込んだ。
「何……?」
目を丸くしている敵の顎を突き上げ、右腕を掴んで地面に叩きつける。その勢いを殺す事無く、慌ててナイフを抜いた男の手を捻り、地面に倒して武器を奪い、さらに力を込めて間接を外す。そして銃を向けて来た男の顔面を殴り、ひるんだ隙に相手の体を反転させて首にナイフのセレーションを当て身体の自由を奪った。そして男の手に握られていた銃を奪って、逃げようとした敵の背中に数発を撃ち込んだ。銃を通路の向こう側に向けたまま、ナイフを腕の中の敵兵の、喉元に突きつける。
「司令室はどこだ。言えば命だけは助けてやる」
「あ……この通路をまっすぐ直進すれば……」
兵士は目を丸くしてそう言った。タイラーはひとつ頷くと、手首を返して兵士の首を締め上げた。抵抗が無くなったところで、腕を離す。兵士の体はどさりと崩れ落ちた。だが、まだ脈はある。
「命だけは助けてやったぞ」
そう言うとタイラーは兵士の装備ベルトから弾薬を抜き取り、通路を走りながらC4爆弾のリモコンスイッチを押した。爆音と共に炎が上がり、格納庫内に破片が飛びまわった。タイラーは走りながら振り向いて、この爆発ならば殆どの機が使用不能だろうと判断した。核攻撃は不可能になるが、まだ他にもやる事が残っている。
「モーガン!!!!!」
タイラーは走りながら叫んだ。まだ決着がついていない。
「格納庫が爆発!内部の機は全滅したと思われます!」
「艦に穴が……浸水!核ミサイル保管庫はもう駄目だ!」
「上空より敵機!爆装している模様!誰か上がって奴を落とせ!」
艦内通信がせわしなく飛び交う中、モーガンはぐったりして椅子に座っていた。その前ではネイラーが向かい合って腰かけ、にやにやと笑っている。
「格納庫を吹き飛ばされたとは情けない。だが、これで俺は奴と一騎打ちする機会を得た。今度こそ決着をつけなければならない」
「ネイラー、上がるのか?」
モーガンは机の上で手を組んだまま聞いた。
「ああ、もちろんだ。それに、あんた自身もあの男と決着をつけなければならない筈だ。でなければ、どちらも前に進む事は出来ない」
「……そうだな」
モーガンは決心した様子で立ち上がり、艦内通信を開いた。艦全体に向けて。
「核ミサイル使用不能、DOVE使用不能、緊急事態!作戦は失敗、総員退艦せよ!繰り返す!総員退艦せよ!」
モーガンはそこまで言って、通信機のコードを引き千切った。
「命令を訂正するつもりはない……という訳か」
「射出準備は完了している。行けよ」
「了解、感謝する」
そう言って、ネイラーはドアを抜けた。通路の向こうから銃声が鳴っているが、ここまで来るにはもうしばらく時間が必要だ。
「待ってろよ、コルト」
ネイラーは甲板上に向けて駆け出した。
「こちらコルト、敵空母の滑走路を視認。爆撃を行う」
「コルト、要撃機は?」
「格納庫はタイラーが潰してくれたんだ。おそらく問題は無……!」
コルトは滑走路に見覚えのある機体があるのに気が付いた。黒い機体に、大きく描かれた、まるで血のように赤い十字架。数年前の記憶が蘇る。機体はF8ではなくF14だが、間違いなく彼だ。
「大尉!」
間もなくカタパルトが前進し、F14は射出された。そしてすぐに速度を上げ、上昇して来る。コルトのF4Eめがけて……。こちらは爆弾を抱えているが、向こうはどうやらサイドワインダーを二発のみらしい。その上ファントムUは損傷している。ドッグファイトをやるには歩が悪すぎる。
「コルト、着艦しろ」
無線を通じて大尉の声が聞こえた。
「ワイヤーは張ってある。現在ジャガーノートは総員退艦中だ。そのファントムUを捨てて、カタパルトに接続されているF5Fに乗れ。カタパルトは自動制御だ。一人でやれる」
「なぜだ、大尉。なぜ俺を助ける」
コルトは数年前までの戦友に向かって聞いた。
「コルト、俺はお前と決着をつけたい。だが、そのボロボロのファントムUでは勝敗がつかない。それだけだ」
「分かった、着艦する」
そう言って、コルトは一度通信を切った。爆弾を投棄、フラップダウン、ギアダウン、アレスティングフック展開、エアブレーキ開。アプローチ。
「よし、コルト。うまくやれ……」
ネイラーはコルトのF4Eが滑走路に近づいて行くのを、彼に並行して飛びながら見守った。
「そういえば、昔もこんな事があったな」
コルトが被弾し、片肺飛行で空母まで帰還した時、ネイラーは今と同じように並行して飛び、彼を見守った。その時、コルトはいつも通り的確に着陸した。彼のファントムUはまたもや片肺飛行で、さらに後席のキャノピーが無いという状況にあるが、それでもネイラーは信じていた。
「そうだ、コルト。お前ならやれる。そして、俺と決着をつけよう。俺がお前を落とすか、お前が俺を落とすか、何れにせよ、ここで戦わなければお互いに未来は無いぞ」
コルトは高度を落とし、三本目のワイヤーにフックを引っ掛け、着艦した。エンジンを停止し、キャノピーを開いて飛び降りた。すぐ近くに駐機された、カタパルトに接続されたF5FタイガーUに乗り込む。引っ掛けられていたラダーを蹴り飛ばし、すぐにキャノピーを閉じる。懐かしい機体だ。あの頃よりさらに高性能になっているが。
もう既にエンジンには火が入っており、動翼も全て正常に稼働している。スロットルをMAXアフターバーナーに押し込むと、カタパルトが前進した。加速。数秒と経たずに彼のタイガーUの洋上迷彩の翼は風をその手に掴み、滑走路から打ち出されると同時に上昇した。間もなく通信が入る。
「よくやった、コルト。じゃあ始めよう」
赤い十字のF14トムキャットが彼の横につき、360度ロールした後に加速、急上昇した。コルトはある程度まで高度を上げ、今度は速度を上げるために降下した。
「分かった、大尉。決着をつけよう」
コルトは腹をくくった。もう一度、かつての上官を、かつての戦友を落とす。
「レンジ・オン!」