第十五話
「まぁ、そういう訳だからタイラーに強姦魔の気は無いんだ」
コルトはソファーに座ってふくれているアニタに、同じような事を何度となく言っていた。タイラーと文月が皐月に事情を説明している間、余ったコルトがアニタを慰める役を負う事になったのだ。
「だからって、あんな事する事無いじゃないの」
クッションを抱いて俯いているアニタに、コルトは呆れてふと漏らしてしまう。
「何だよ、始めて人に見られる裸でもあるまいし」
「ちょっと!どうして知ってるのよ!私が陽兵と……」
アニタはその一言に赤くなって、コルトの顔を睨みつけて言った。睨まれたコルトは悪びれもせず応える。
「俺は別に“文月と”とは言ってないぞ?」
「はわわ……!」
ますますアニタの頬が赤くなる。
「もう嫌!コルトなんて嫌い!」
「ああ、もう悪かったよ。悪かったから晩御飯作ってくれ。お腹ペコペコなんだ」
居間の騒ぎを聞きながら、タイラーは呟いた。
「もう大丈夫みたいだな。思ったよりタフな娘だ……もちろんお前も」
そう聞いて文月はため息をひとつ吐いて、うんざりした様子で答えた。
「二度と御免ですからね、ロシアンルーレットなんて。あんたがあんな事するなんて思いもしませんでしたよ」
そう言いながらももうケロっとしている文月は、帰るなり急いで着替えていた。汚れたズボンは雑巾にでもするつもりだという。そして、安心したのかもう既に一杯飲んでいる。アルコールを入れた状態で話して大丈夫なのかとタイラーは思ったが、どうやら慣れたもののようだ。
「話を続けよう。文月がその組織に協力していた理由は分かった。なら組織の目的を知りたい。奴らは何をするつもりなんだ?」
その問いに、文月はしばらく考えてから答えた。
「簡単に言えば……そう、この星を丸焼きにするつもりだそうです」
タイラーは耳を疑った。馬鹿馬鹿しい。
「それじゃ何か?その馬鹿共は核戦争でも誘発するつもりか」
「核ならまだ救いがあった。もっと酷い話ですよ」
文月は腕を組み、柱に寄りかかって続けた。それはタイラーにとっては予想を超えたものだった。
「反物質という言葉を聞いたことがありますか?まぁ、とにかくその反物質と物質が接触すると、とてつもないエネルギーを発するとされているんです。核兵器の比じゃない。尤も、まだ誰も実証した事は無いんですがね。SF小説の中の話ですよ、まったく」
「それを連中は兵器として保持している?」
「彼らはそう言っている。ただ、それは彼らが作ったものではない。でも確実にある……そう、あの断崖絶壁の無人島、竹島に」
「そんな……信じられないな。なら、俺達の追っていた小型核弾頭は一体何の役に立つというんだ?」
敵は四名の精鋭を投入し、竹島を核攻撃するつもりだった。それがタイラー達の認識であり、今も実行中と考えている。ただ、そうとなればフォックスが言ったあの言葉。「それだけしか知らされていなかったのか?」その通り、タイラー達はそれしか知らされていない。それにMSFという言葉に……まさか?
「敵はおそらく、そのフォックス以外は不要と考えたんじゃないでしょうかね。その、つまりあんたの言うMSFというのも、恐らくは……」
「ダミーか!畜生……だから奴は俺達を人形と呼んだんだな」
MSFを名乗る協力者が正確に三人の情報を与えたのも、敵と同じ組織なら説明がつく。三人を売って、ドーベルマンの信頼を得ようとしたのだろうか。そして、もしアルもMSFが保護する前提だったのなら……いや、アルを捕まえているのはその組織だろう。
「アルが来るとなれば、それまで俺達は動けない。奴が仲間である以上はな」
いつの間にか増えていた声の主はコルトだった。戸を開けて入り、座り込む。
「俺達にとっては重大な問題だが、その前にフォックスの目的を知らなければならない。竹島にそのろくでもない兵器が眠っている、文月はそれによってもたらされる破壊から逃れるために手を貸した。となればその兵器は破壊から自分の身は守れるんだろう。気になるのは竹島を核攻撃する必要性だ」
「俺もそこまでは聞いてないんです。だから飽くまでも推測なんですけど……。攻撃はつまり、ただの起爆剤に過ぎないんじゃないでしょうか?その、兵器は危機に瀕してはじめて機動するなら、相応の危機を用意しなくちゃならない。核兵器は現状における、最も強大な破壊をもたらす事が出来ます。分かります?」
文月は自分でもよく分からないような様子で言った。タイラーは馬鹿馬鹿しいと言いたかったが、何だか真実味を帯びて聞こえる。そもそも、非現実的な脅威に立ち向かったのは初めてではないのだ。文月の仮説は信ずるに値するものに感じられる。だが、それが彼らの言う準備というものなのだとすれば……。
「ええ、だからあんた達を襲った。状況を報告したところ、向こうから見通しがあるとして許可が降りたんですよ。尤も、姉さんの家での騒ぎ以降全く連絡が通じませんから、真偽を確かめる術はありませんがね」
「もう既に敵は爆破の準備を整えていると?」
タイラーはそう言って文月の顔を覗いたが、彼は何も言わない。沈黙の中、コルトが口を開いた。
「文月、頼みがある」
男はロングコートを捨て、暗色迷彩の野戦服だけを身に纏っていた。トラップを仕掛けながらもうだいぶ逃げ回っているが、それでもまだ追っ手が来ている。普段なら韓国人の武装警察官など案山子と同然で片腕一本でもなぎ倒せるが、今回はかなり重い荷物を背負っている。米国特殊部隊向けに開発された核搭載地雷、SADMである。そして、今の彼は手負いだ。
「クソッ……視界がぼやけて来た」
フライングフォックスはその場に倒れ込んでしまった。背負っていたSADMは傍に転がり、それを覆っていた布が破けて操作盤が剥き出しになる。これからタイマーを作動させても、彼自信は核爆発の影響下から逃れる事は出来ないだろう。彼が上陸時に装備していたフルトン回収用ヘリウム気球は敵の銃弾に撃ち抜かれ、無線機も転倒した際に運悪く岩にぶつけて故障してしまった。彼の武器たる二振りの刀のうち、通常の日本刀の方は数人を仕留めたところで刃がボロボロにこぼれてしまい、それとは違って高周波の振動を発生させて物体を切断する高周波ブレードは、上陸時に水に触れて回路がショートし、早速ただの金属棒となってしまっていた。最新の格闘戦用武器が、ほんの少し海水を吸って使用不能になったとはお笑いである。製作者に会ったら斬り殺してやりたいと思ったが、どうやら無理そうだ。
彼は横腹に一発、右脚に一発のカービン弾を受けていた。SADMは彼とは別の特殊潜航艇で他の地点に送られていたが、それを回収に行く途中で竹島守備隊の数人に運悪く発見され、銃撃を受けた。
運悪く?いや、敵はまるでフォックスの居場所を予め知っていたように、正確に狙って来た。それに韓国警察があそこまでM1カービンをうまく使うとは聞いていなかった。もしかしたら他の人間とすり替わっていたのかもしれないし、そうだとすれば敵は全員顔を隠していたので、管黒人でなかったとしても気付かなくて当然だ。まぁ人種は関係無い。今やるべき事は決まっている。フォックスは痛む体を無理やり起こし、そして巨大な缶のような形の核地雷を起こした。
「爆破、スタンバイ。準備完了しだい即時爆破……。セット」
パネルを操作すると、爆発までの時間がデジタル式で表示された。五分との表示から、点滅しながら一秒ずつ減って行く。ああ、五分もあれば過去を振り返るのには十分だ。敵がトラップに気を取られている間、邪魔される心配もしなくて良い。トラップの設置には自信があった。
「そう、俺は工兵だったんだ。ちょっと格闘訓練の成績が良くて、高い所や暗い所が好きなだけの……」
傷の痛みが強くなるごとに、自分の記憶がよみがえって来る。今までどうして思い出せなかったのかは分からないが、とにかく忘れていた。フォックスハウンドにスカウトされた時の事、始めて他の三人と組んだ事、呑み交わした酒の味。戦いの中で薄れていたそれらの思い出が、徐々に輪郭を得、色を取り戻していく。そして、彼が憧れた英雄たちの姿を……。タイマーの数字が徐々に減って行くが、まだ彼らの事を思い出すには十分の筈だ。
彼らと初めて出会ったのはベトナムの地だった。英雄たちの伝説はいくつも聞いたが、彼がそこで本当に出会った英雄は四人だけだった。自由を語りながら彼らを道案内した、現地民の傭兵。敵の高射砲陣地に破壊工作を行っている間、彼らを敵の猛攻から守り切った陸軍SFG、グリーンベレーの部隊と特にその隊長。敵の空爆から彼らの陣地を守るために、単機で爆撃機編隊とその護衛戦闘機隊を相手にした、とある航空部隊の二番機に乗った男……彼の顔は見た事は無い。そしてもう一人……
「海軍特殊部隊、SEALsの……」
名前は知らないが、その男はフォックス達が占拠する予定だった高射砲陣地を、一晩のうちに壊滅させてしまっていたのだ。現場には弾痕のひとつさえ残されていなかった。ただあちらこちらに横たわる死体のみ。彼らが調べたところ、半数は首を折られ、三割は毒をもられ、残る二割は数人で周囲を見張っていたらしきところを、ナイフで首を裂かれて死んでいる。人間の仕業だとは思えなかった。
「名前は分からなかった、でも今は分かるぞ……」
ずいぶん弱っていたようだが、その眼に宿っていた殺気は並大抵の人間のものではない。彼の仲間を殺した男、彼が追っていた男。ジャック・タイラー。彼は真実を追って、俺と同じようにここへ来るだろう。そして、俺が見られなかったものをその目でしっかり捉える筈だ。だがお前ではあの男を止める事は出来ないだろう。いや、しかしお前は独りではない。もしかしたらやってのけるかもしれない。猶予はあと30秒と残っていない。
「さよならだ、ジャック・タイラー。そして、コリン・マクナイト」
彼がそう言って目を閉じた瞬間、その缶のようなものは地上で最も明るい光線を放った。そして、彼の肉体は一瞬のうちにその光と、灼熱の中に飲み込まれる。と、その瞬間に彼の魂は周りの乾いた砂と岩を削り取りながら、地中へと吸い寄せられた。
「見ろ、綺麗だ」
男の目には白い光と、それが瞬く間に地面に吸い込まれる光景が全て映っていた。地上で生まれた太陽が、その下にあるものへと吸い込まれていく。今地下で太陽をのみ込んだものこそ、彼が求めたものだった。
「くそったれのような光景だ。反吐が出る」
彼の横には手錠をかけられた男がぐったりしている。体中に無数の痣、額の上に出来た傷は、かさぶたを剥がされたもののように見える。
「そんなに怖い顔をしてると、天国の君の奥さんが泣くぞ?」
「ふざけるな!殺したのはお前だろ!」
彼らが乗っている船からだいぶ離れたところで、空に火の弾が生まれ、そして海面へと落ちて行った。その光で男達の顔が一瞬だけはっきり見えた。
「落ち着け、アルヴィス・ホープ大尉。いや、元大尉だったな。君が抵抗しなければジェニーは撃たれなくても済んだんだぞ?」
「あああああああ!」
アルは錯乱し、自分の頭を船の甲板に叩きつけ始めた。間もなく銃を持った男が数人でて来て、彼を取り押さえる。だが銃を突き付けられながらも、アルは叫び続けた。
「殺してやる!お前を殺してやる!もう一度!」
「独房へつれ戻せ。あと、例の機体のガンカメラを見せてくれ」
そう言って男はアルの横を通り過ぎ、船の中へと戻って行った。
「うあああああああああ!!!!!」
かつては英雄とも呼ばれた男の、だが今となっては全てを失った無力な男の、悲しみと怒りをどこかへぶつけるような叫びだった。だが、その叫びは彼を救える誰かの元には届かず、墜落した戦闘機が破片をまき散らしながら爆発した、その轟音にかき消された。
航空自衛隊のF4EJ戦闘機が二機、国籍・形式不明機に撃墜され、しかしその事件は伏せられ、誰の目にも耳にも届かず、それから10日後。文月はやっとコルトに頼まれたものを調達した。調達したというよりは、彼が使用できるように手配したと言った方が正確だろう。何せ、今の所は彼らの手元には無いのだから。
「タイラーがそこに知り合いを持っていてくれて助かりましたよ。でなければこんな無理は通らなかった。本当に」
そう言って文月は無線機を組み立てていた。多国籍の大規模傭兵部隊に通信衛星をひとつ間借りする契約を取り付け、不十分ながら武器も買いつけた。手に持てるような武器は全て届いているが、持てない分は今頃日本海の穏やかな海上に浮かぶ航空母艦の上で、コルトが要求した通りに装備を整えられている筈だ。
「俺の知ってる奴の中ではいちばん真面目な奴だ。その分高くついたがな」
そう言ってタイラーはコーヒーを啜った。ジーンズに緑色のシャツという軽やかな格好だが、バックルがアルミで出来た化学繊維のベルトの内側には折りたたんだ剃刀を隠していた。そして手元には整備の為に簡易分解されたFNハイパワーと、もう既に弾薬を装填された弾倉が転がっている。
「今夜出発する。向こうがこの近辺までハリアーで迎えに来てくれるそうだ。VTOL(垂直離着陸)機とは、一体どこから手に入れたんだか……。俺達の翼はまぁそれと比べれば手に入り易い代物だが」
「他の選択肢もあったけど、コルトが指定したんですよ。艦載機の中では自分が一番長い事乗ったやつだからって」
「ベトナムでは例の事件まで顔を合わせた事は無かったが……相当に強かったらしいな。尤も、公式記録では一機しか敵を撃墜していないらしいが」
タイラーと文月が狭い屋根裏で作業をしている間、コルトは皐月と同じ部屋に居た。
「蒼輔さんが撃墜されたのは文月が教えてくれた情報ではこの竹島付近。誰が撃ったのかは分からないが、とにかく彼らの機が墜ちたのは間違いないようだ。そして俺達がこれから行く場所には、何らかの兵器が隠されている可能性が高い。となれば、それを監視する為に敵が近くに陣取っている筈だ。脱出に成功していれば、望みはある」
コルトはそう言って、皐月の震える手をとった。彼女は震えながら、この前聞いたのとはまるで違う、細い声で言った。二人の男を軽々と投げ飛ばしたあの彼女とは思えないほどの弱々しい声。
「でも……多分死んでる」
コルトは目を伏せた。本当は彼も同じ事を考えている。被弾によって電気系統に故障が発生し、脱出装置が動かなかったという話も聞いたことがある。最新鋭戦闘機、F14Aトムキャットのパイロットと後席が脱出を試みたものの、不運が重なり、後席がキャノピーに頭をぶつけて死亡したという噂も聞いた。それまででもなく、銃弾や破片がコックピットを叩き潰した例もある。コルト自身、敵機のキャノピーグラスが血で真っ赤になるのを見た事があった。おそらく即死だったろう。
仮に脱出に成功したとしても、敵の捕虜にされた例もある。場合によっては生きて帰れる事になるが、運が悪ければ空中で木端微塵になった方が良かったと言えるほど酷な目に遭う事になる。
今回は降りたところはおそらく海上だ。そうなればますます生存は絶望的になる。目の前で震える、まぶたを腫らした美しい女性の夫は、よほど幸運でなければ生きてはいないだろう。だが、コルトはそうは言わなかった。
「まだ終わってない。諦めちゃだめだ」
皐月の部屋から持って来た赤いマフラーを差し出す。
「これ……」
彼女の目にわずかながら生気が戻った。
「帰って来たらこれを渡すんだろ?」
コルトはそう言って立ち上がった。今夜にはハリアー二機が彼らを迎えに飛んで来るのだ。それまでに準備を整えておかなければならない。蒼輔以外にも、彼らには助けなければならない仲間が居る。あの地で共に戦い、それ以来ずっと背中を任せて来た仲間の一人、アルヴィス・ホープ。敵とする組織が作戦地点に居るとすれば、彼も同時にそこで囚われている可能性が高い。少なくとも情報だけは手に入れられるだろう。
「じゃあ、行くからな」
コルトは皐月に背中を向け、部屋のドアを開けようとした。
「待って!」
背中に暖かいものがぶつかった。手がみぞおちの前にまわされる。皐月に後ろから抱きつかれているのが分かった。コルトはその細い腕に触れようとしたが、思いとどまった。彼女が体を寄せるべきなのは自分ではないのだ。
コルトは皐月の体を突き放し、黙って部屋を出た。
「捕えたぞ!」
狭い船内通路に男の興奮した声が響く。彼がボロボロになった獲物に銃を突き付けていたのは、外部との通信の全てを負う通信室。間も無く他の守備兵を連れて司令官の男が駆け付けた。
「アル……お前はどうにも救いようの無い奴だ」
そう言ってアルの前髪を掴み、強引に上を向かせる。頬と側頭部の銃床で殴られた痕からは血がどくどくと流れ出し、片方の目は光を失っているようだった。口元はへらへらと笑っている。
「モーガン、お前の負けだぜ。潜れない潜水艦なんて、ただの鉄の棺桶だ。それに、もうすぐ奴らがもう一度やってくる。奴らは俺より強い。お前の運も三年前のアレで尽きただろうしな」
「どういう事だ……」
モーガンはそう聞いたが、アルは答えなかった。代わりに機関室からの無線回線がその異状を知らせた。
「破壊工作です!潜水機構に故障、浮上します……!」
「ふざけるな!」
怒りにまかせて拳銃を抜き、アルの額に突きつける。
「修理するにしても丸三日はかかりそうだな……だが、それまでに奴らはこっちまで来られるだろうさ」
アルはそう言って、モーガンの顔を睨みつけた。
「お前達はおしまいだ」
兵士の一人が慌てて通信機のパネルを操作する。日本に向けて、とある周波数で暗号化された情報が送信され続けていた。すぐに接続を遮断し、内容を消去する。だが、その殆どは既に送信が完了していた。
「何か言い残す事は無いか?」
モーガンが怒りに満ちた声で訊いた。
「そうだな……」
もしジェニーが生きていれば、愛しているとでも伝えて貰う所だ。だが彼女はアルが捕らえられた時、敵の銃を奪って応戦しようとしたところで、やむなくアルを撃とうとした敵の銃弾に、身代わりとなって射抜かれた。思えば迷惑ばかりかけてきた。訓練の間ずっと寂しい思いをさせ、それから解放されて一緒にのんびりしようと思った矢先の死。謝っても謝りきれない。だが、彼女は死んだのだ。
今、自分が何かを伝えるべき相手は二人だけ。彼らにだけは伝えておかなければならないのだ。
「コルトとタイラーに、『アルヴィス・ホープは死んだ』と」
「それだけか?」
「ああ」
自分が生きている可能性があると思えば、彼らはここを攻撃する事を躊躇するかもしれない。こいつらが間違い無く伝えるとは限らない。だから通信内容の中に保険として混ぜ込んでおいた。こいつらの目的、この兵器の実態、それが分かるだけで彼らはだいぶ動きやすくなる筈だ。ここで俺が死ねば、彼らが躊躇する理由は何も無くなる。
アルがそれを胸の奥に留め、目を閉じたとき、引き金が引かれた。その死の瞬間に際しても、彼は一片の恐れも抱かなかった。そう、恐れるべき事も公開するべき事も無い。彼は彼の為すべき役割を果たした。
希望は戦士達に引き継がれたのだ。