第十一話
 深夜、その小さな島の海岸に浮上する人影があった。だが、潜水装備ではなく、顔面に骸骨の口に管が付いたようなマスクを被り、黒いコートを羽織っただけだった。
 彼は砂浜から上陸し、近くの岩陰に素早く隠れた。そしてマスクを外し、インカムを装着する。
「こちらフライングフォックス。潜入ポイントに到着した。これより“土産”の回収に向かう」
「了解、フォックス。気をつけろ」
 フォックスは無線を切り、コートの内ポケットから多機能型の監視ゴーグルを出して装着した。
 タイラー達がその島にたどり着く、前日の事であった。

 コルトは船室でM19を掃除していた。彼らが現在持っている唯一の銃器である。
「コロンビアでも米国でもいろいろと調達したが、片っ端から役に立たなくなったな」
 タイラーがその後ろでコーヒーを啜りながら言った。
「残ったのは六連発の.357リボルバー拳銃のみ。ショットガンは真っ二つにされ、Vz61も拾って使おうと思ったら強力なマグナム弾によって使用不能なまでに壊れてた」
「だが、タイラー。後から武器・装備も輸送されて来るんだろう?」
 と、コルトが拳銃をホルスターに戻して言った。
「アル達と一緒に来るという話だったか?」
 タイラーはコーヒーを机の上に置いた。
「彼らはそう言っていた。だが、あれから全く回線が通じない。おかしな話だが……」
「日本に着いたら協力員を通じて連絡出来るんじゃないのか?」
「その筈だが、ただMSFの話では、彼らはダミーの宗教結社を通じて指示を受けているらしい。おそらく彼らは組織の実態を知らないんだろう」
「なるほど、宗教結社か……」
 タイラーは妙な違和感を覚えた。なぜダミーを使う?なぜ武器をアルとジェニーに運ばせる?そもそも、竹島に核を使う理由は語られた通りなのか?
「なぜ竹島にフォックスハウンドを送るんだ……?沖縄に駐留しているグリーンベレーを送り込めば良い話じゃないのか?或いは、海軍のSEALsもCIAの工作部隊よりは動かし易い筈だ」
「タイラー、少なくともMSFからの情報によってフォックスハウンドは一人を残して倒せたんだ……」
「なぜフォックスハウンドが動いた?国内における行動なら他に方法もあった筈だ。軍で拘束して人の目に触れる前に毒殺。警察を動かして拘留し、そこで暗殺。それが可能なのにどうして極秘部隊であるフォックスハウンドが動かなければならない?追跡を振り払うのに精いっぱいで疑う暇が無かったが、おかしな事ばかりじゃないか」
 タイラーはそう言って頭を抱えた。その向かいに座ってコルトが口を開く。
「となると、フォックスハウンド……いや、あの抹殺部隊は何なんだ?」
「確かに強かった。間違いなく俺達より強かった。かなり訓練された戦闘員で、つまりフォックスハウンドと同等の訓練を受けた俺達より、さらに訓練されたフォックスハウンド隊員だと考えるのは妥当だ。彼らもフォックスハウンドを名乗っていた」
「なら、奴らは……」
「それでも納得がいかない。多大な時間と資金をつぎ込んだ隊員を今回のように見殺しにする筈は無いんだ。陸軍の資金で訓練された俺達はともかく、チームが殆ど全滅するまで放っておくとは考え辛い」
「奴らに残ったのは一人だけか」
「フライングフォックス。俺が見たところ、他の三人以上に手強いと思うんだ。それに、あの武器……」
 タイラーはフォックスと対峙した時の事を思い出した。
「奴は二振りの刀を使って来た。片方は日本刀のようだったが、もう片方は何か特殊な刃のようだった。俺のナイフをいとも簡単に切り裂いた。いかに切れ味の良い日本刀であっても、ああまでも切れるとは異常と言っていい。恐らく刃を高周波で振動させているんだろう。試作品のハイテク近接戦闘武器だ」
「しかし飽くまでも刀だろう?他に銃の類をぶら下げているとは思えない。空気抵抗が大きくなりすぎる。重量もだ」
「武器より恐ろしいのは奴の監視能力と、飛行による機動力の高さだ。ステルス迷彩を装備している可能性さえある」
「待て、奴だけそこまで高度な装備を?」
 コルトがその疑問にたどり着いた。
「奴以外の隊員は要らなかったんじゃないのか……?」
「まさか!」
「なら、なぜあのアイアンハウンドという男は単独で襲って来たのか。アルが撃たれた後、俺達は二人になった。四人同時に攻められれば間違いなく敗れていた。しかし奴らが三人になり、そしてMSFからの情報によってどうにかホークアイを倒し、その後襲って来たナイトホークもどうにか倒したが、これも二人対一人でどうにか倒した」
「相手単体は確かに強いが、MSFからの情報も含めて、俺達に有利に展開している?」
「MSFの情報がやけに正確で詳細なのも気になる。民間の軍事企業が極秘部隊の情報まで探れるのか?本当に奴らはMSFなのか?」
「というと、今回の事件においてはCIAもフォックスハウンドも、MSFも偽物だというのか?」
「CIAと民間の軍事企業であるMSFとの間に何らかの関係があるのは間違いない。ほんのこの間、中南米で何か大きな事件があったという噂もある。だが、そうとしても今回の事件には不可解な事が多い。まだ断定はできないが、気をつけていた方が良いだろう」
 タイラーはそう言って、ひとつ溜息を吐いた。
「さて、到着まであとどのくらいだ?船は相当な速度で進んでるようだが」
「今夜のうちに着く。夜、人目につかないうちに協力者の家まで向かう」
 コルトはそう言って書類を出した。
「だいたい書類の通りだが、詳細は現地で状況に応じて決める」
「なるほど、いつも通りか。武器が現地調達なら泣く所だった」
 タイラーはそう言って小さな窓から外を覗いた。日は落ちかかっている。
「アニタはどうだ?隣の船室に置いてもらってるが」
「気になるんだろう?見て来い」
 コルトがそう言った時、船が揺れて机の上のコップが滑り、落ちかけた。それをタイラーが一滴も溢さずに左手で取った。そのまま何も言わずに啜る。
「悪かったよ。全て思い出させてしまったんだ、無理も無い」
「そして、俺には何も出来ない」
 タイラーはコーヒーを置いた。コルトから目を背け、窓を見つめる。外は何も変わっていない。
「なら……」
 しばらく黙ってコルトが口を開いた。
「殺せ」
 ショルダーホルスターに収めたM19を抜き、タイラーの前に置いた。
「何だと!?」
 タイラーは机を叩いて立ち上がった。
「出来ないとでも言うのか!」
 コルトはタイラーの目を睨み、同じように立った。
「お前が身を守るために銃を撃った事で、彼女は酷い目に遭った。そして記憶を取り戻し、俺達が想像も出来ないような苦痛に耐えている。なら、その苦痛から解放してやる事がお前に出来る唯一の事じゃないのか?」
「しかし……」
 そう言って目を細めたタイラーを見て、コルトはふっと息を吐いた。
「彼女と会う前のお前なら簡単にやれた筈だ。だが今のお前には出来ない。彼女が特別だからじゃないのか?罪を償いたいだけなら殺せばいい。だが、お前は彼女に生きていて欲しいと願ってる」
 何も言えなくなったタイラーに向かって、コルトが続けた。
「人なら誰でも、人を好きになる事はあるんだ」
「……違う」
「タイラー……」
「コルト、俺は人じゃない。少なくとも人である事を否定して来た。子供のころに拉致され、戦っていた時から。そして今も……」
「なら、その涙は何だ」
 コルトはタイラーの顔に触れ、彼の涙を拭った。タイラーはその時初めて自分が泣いている事に気がついた。
「ナナシが死んだ時も、アニタを抱こうとした時も。お前は人間なんだ。悲しむ事が出来れば、愛おしいと思う事も出来る。もう受け入れても良いんじゃないのか」
「そういう訳にはいかない」
 タイラーは服の袖で溢れる涙を拭いた。
「他人を受け入れようとすれば、自分を危うくする。人の感情に目を向ければ、弱さを作る事になる」
 タイラーの目にはコルトが今まで見た事の無い色が浮かんでいた。タイラーがこれまで感じて来たものが映し出されているような気がした。コルトには理解できない物が。
「分かった。すまない」
「無駄に話した。到着まで少し寝る」
 タイラーはそう言ってベッドに倒れた。
「一応言っておくが、お前は何も悪くは無いんだぞ。タイラー」
 コルトは椅子に座り、M19をホルスターに戻して言った。日はもう水平線の向こう側に消えてしまっていた。

 何時間眠ったか分からなかったが、少なくとも疲れは取れていた。外は真っ暗で、船は動きを止めていたようだった。
「コルト、着いたようだ」
 狭いベッドから起き上がり、コルトに声をかける。コルトは椅子に座り、机に突っ伏して眠っていた。
「おい、コルト?」
 肩に手を置き、揺さぶる。と、コルトの首から赤い液体が吹き出した。
「コル……」
 間もなく彼の首が崩れ落ち、タイラーの足元に落ちる。彼は驚いたような眼でタイラーを見上げていた。
「嘘だろ……」
 その時、タイラーは背後に殺気を感じた。反射的に飛び退き、ドアに飛びついて部屋から出る。だが何かが後ろから飛び、彼の肩に切り傷を作った。剃刀か何かのようだった。構わず走り、アニタの部屋に飛び込む。
「アニタ!」
 彼はベッドに駆け寄ったが、そこには血の海に肉片が浮かんでいるだけだった。
「アニ……」
 タイラーは言葉を失った。吐き気が襲ったが、それどころではなかった。
 すぐに手元にあった椅子を取り、脚を掴んでドアの方に向け、構える。刃物を持った相手にはこれである程度距離が稼げる。
「クソッ!来やがれ!」
 と、ドアからナイフを持った男が飛び込んできた。素早く椅子で壁に押さえつけ、相手の股間を蹴り上げる。その一瞬で怯んだ相手の手首を掴み、ナイフを奪い取る。
「オオ!」
 叫びながら相手の首にナイフを突き立て、かっ切る。血が彼の顔と服を赤く染めた。だが、目の前に居た男は……。
「お前は……!」
 目を見開いてタイラーを睨みつけている男の顔は、何とタイラー自身のものだった。

「おい、起きろタイラー」
 コルトの手がタイラーを揺さぶった。タイラーは汗だくになって飛び起きる。
「悪い夢を見た」
「夢なら覚めるから心配ない。さあ、急ごう」
 コルトはタイラーにバッグを渡した。自分の分のバッグを背負って部屋を出る。タイラーもそれに続いた。
「協力者は港で待っている。先に行ってくれ。アニタは俺が連れて行く」
「分かった」
 アニタの部屋に入ったコルトと別れ、タイラーは一人で狭い船内を抜けて甲板に上がった。そこからそのまま港のコンクリートの地面に飛び降りる。
「何処だ……何処に居る?」
 辺りを見渡すと、軽自動車の脇に立っていた男と目が合った。男はタイラーの方に駆け寄って来た。そして、右手を差し出す。
「“ジョン・ドゥ”?」
「ああ」
 タイラーは求められた通り握手をした。
「あとの二人は?」
「すぐに出て来るが、一人はオートバイで移動出来る。法的整理はしてある」
「分かった、荷物を持って車に乗って下さい。仮拠点に案内します」
 タイラーの後ろにコルトとアニタが付いて来た。コルトはアニタに何か言うと、車両庫に走った。間もなくしてインディアンに乗って出て来る。
「タイラー……」
 後ろに着いて来たアニタは、タイラーと目を合わせようとしなかった。
「行こう」
 タイラーは首を振って言うと、男に続いて車に向かって歩いた。

「そう、自己紹介がまだでしたね。文月陽兵(フヅキ・ヨウヘイ)です」
「ジャック・タイラーだ。彼女はアニタ・サンチェス。後に着いて来てるのはコルトと呼んでやってくれ」
「本名は?」
「聞いた事が無い」
「いずれお聞きしたい」
 フヅキは運転しながら話していた。アニタは後部座席に、タイラーは助手席に座っている。
「良い街でしょ。手頃な広さで、必要な物はだいたい揃ってる。道路、鉄道、港もある」
「ガラの悪いのが歩いてるが、気にした方がいいのか?」
 タイラーは窓の外をさり気なく見ながら言った。
「ああ、むしろ気にしちゃいけないぐらいですかね。この変は漁業と貿易で金がよく回ってるらしくて、まあ暴力団とか暴走族とかそういったものは多いです」
「人混みの中で爆破事件でも起こらない限り気にしないさ」
「タイラーはベトナムに?」
 交差点で停車しながらコルトが聞いた。
「ああ、しばらくの間な。海兵隊と海軍で」
「海軍となると、SEALsですか。そこの人間はもはや人の域を超えていると聞いてます」
「越えてるんじゃない、獣の域まで退化してるのさ。あんたも確か……」
「ええ、陸上自衛隊に去年までね。最終階級は二等陸曹」
「軍曹殿か。こっちから敬礼しなきゃいけなかったな」
「なに、もう退役した身ですから」
 フヅキはそう言って前に視線を移した。青信号を見てまた発車する。
「だが、足を引っ張るような事にはならないと自負してます。あなた方には及ばないだろうが、俺もレンジャー訓練を受けている」
「最初から心配なんかしてないさ。領土問題に決着をつけないまま駐留している韓国軍を除けば、敵は一人と想定される。想定外の事態はまあ起こるもんだが」
「肝に銘じておきます」
「で、その仮拠点から本部への連絡は?」
「向こうからは作戦概要が伝えられた以外は、作戦開始の時期しか知らせて貰えないようです。こちらからの連絡は一切カットされています」
「怪しいと思わないのか?」
 フヅキの横顔に、自分の持っている疑問をぶつける。
「勿論です。だが、自国に三度核が使われようとしている。信頼出来る裏付けもありましたからね。米国でベトナム戦争時代に作られたSADMが一つ消えていたという噂も流れました。自衛隊が動かない以上、極秘裏にでも動ける人間が動くしか無い」
「19歳といったか。若いのに立派だな」
 タイラーは、その年齢の割に落ち付いていて、大人びた顔に心からそう思った。
「俺にとっては当然の事なんですよ……さて、少し悪路になる。サンチェスさん、気をつけて」
「あ……はい」
 アニタは少し頬を赤らめて応えた。タイラーはミラー越しにその様子を見たが、気にしない事にした。
 今はそれどころではない。

 目的地に着くまでしばらく時間がかかった。海沿いの道を走り抜け、街中を通り過ぎ、ひとつ峠を越して、また小さな街。そこからまたひとつ峠を越した頃に、やっとフヅキがタイラーに声をかけた。
「そろそろですよ」
「ああ、もう少しで寝るところだった」
「後ろの彼女はもう寝てるみたいですね。ああ、部屋は男女分ありますが、御希望ならお二人用に用意しても……」
「そういう関係じゃないんだ」
「失礼、俺はてっきり……」
 フヅキは焦るように前方に目線を戻した。
「そのうちいい男と出会ってくれればいいんだがな。辛い傷跡を受け止めてくれるような……。俺のつけた傷をな」
 タイラーはそう言って外を眺めた。もう日が上がり始めている。
「何かあったんです?」
「そいつの親父を撃った。民間人だった」
「……そうですか」
 フヅキはそう言って遠くを見た。
「でも、あなたの意志で撃った訳ではないんでしょ?命を狙われたとか、否応なく……」
「撃った事には変わりない。その後死体を“処理”もした」
「タイラー、俺は人を殺した事は無いけど、仕方のない事だと思うんです。殺されそうになった時、相手を殺すしか生き延びる方法が無いなら、生きる意志がある限り相手を殺さなきゃならない。戦場に限っての事じゃない。普段生活している中でも同じだ」
「ああ……」
「すみません、皆分かり切ってる事でしたね」
「ああ、だがそれで割り切れない」
 タイラーはそう言って首を横に振った。フヅキは微笑んだ。
「優しいんですね」
 タイラーはその言葉にはっとしたが、だがすぐに目線を前方に戻した。バックミラー越しにアニタの寝顔が見える。
「いや……弱さだ」
「着きましたよ」


「生き残ったのは君一人だけか。まぁ、相手が悪かった」
 広い無機質な部屋に二人の男が居た。一人は長机に突っ伏して肩を震わせ、もう一人は壁にもたれて腕を組んでいた。
「結果はどうあれ、よくやった。奴らを相手にして、互角以上の戦いぶりだったんだ」
「だが、彼らは死んだ」
 震える声でフライングフォックスは言った。
「君だけでも生き残って帰れたんだ。問題無い、次の手は打ってある」
 腕を組んでいた初老の男が鞄から数枚の書類を出し、フォックスの目の前に差し出した。ぐしゃぐしゃになった顔を上げ、フォックスはそれを読んだ。
「何としても計画は実行する。君一人でも可能だな?」
 そう言われてフォックスは目を閉じ、そしてかっと開いた。
「勿論です。司令官殿」
男は満足そうに頷くと、手元の通信機に話しかけた。
「航空部隊、状況を第二段階に移行。これからが本番だ」


「さて、特に大事な荷物が無いようなら俺が運んでおきましょうか」
 薄日の中で車から降り、フヅキが言った。
「そこまで気を遣わせる訳にはいかないさ。俺達の荷物は俺達が運ぶよ」
「分かりました。じゃあ先に部屋の準備をしておきます」
 タイラーと、着いたばかりのコルトに向かって会釈してフヅキは家の中に飛び込んでいった。
「空挺鍛えのお兄さんはなかなか男前じゃないか」
 インディアンから降り、ジェットヘルメットの風防を持ち上げながらコルトが近付いて来た。
「なかなかの好青年だよ。彼に娘を預ける両親が居たら、そいつらは何も心配しなくていいだろう。だが、どうして元レンジャーだと分かった?」
「資料に書いてあったんだが……まあ、見てなくて当然だ。ある程度の実力のある者を要求してたからな」
 コルトはヘルメットを脱ぎ、ポケットから書類のコピーを出してタイラーに渡した。MSFを名乗る組織から届いたもので、フヅキの素性が記されていた。
「なるほど、確かに間違いないようだ」
「さて、荷物を運ぼう。といっても大したものは無いな。フヅキに運んでもらっても良かったかもしれない。三人分合わせてもパラシュートより軽い」
「先に行っててくれ。ちょっと書類を見ておきたい」
「ああ、分かった。アニタを起こして先に入っておく」
 そう言ってコルトはヘルメットをインディアンのシートに乗せ、車の方に向かった。
「だが、たいした経歴だ」
 タイラーは書類を眺めた。
 陸上自衛隊の公式記録ではなく、MSFを名乗る組織が独自に調査したものだと思われる。というのも、基礎訓練とレンジャー訓練の後、冬季戦訓練を修め、何とベトナムにて極秘に実戦参加をしているのだ。それも去年、入隊から殆ど間もない18歳の時に。公表はされていないが、かなりの戦果を挙げていたようだ。
 しかし、どうしてそんな人材を陸自は手放したのだろうか。
「最終階級は三等陸尉か」
 退役直前に特進している。傷病除隊という事になってはいるが、それほど重症ではなかったようだ。資料にも身体の不具合は示されていない。
「本人が望んだか、或いは別の組織からスカウトされたか……まあ、おいおい分かるだろ」
 タイラーは書類をポケットに詰め込み、車に戻った。