第一話
 コロンビアの奥地、ある古びた工場が夜中の十一時だというのに煌々と明かりを灯し、何かの沸くような音と熱を発していた。
 内部では数人の男達が大鍋を掻きまわしたり、白い粉末を容器に移し替えたり、忙しなく働いていた。そして完成品と思わしき粉末を、葉巻をくわえた大柄な中年の男が舐め、何やら部下に対して注文をつけていた。
 施設の外には数人の銃を持った男が立っていた。米軍が正式採用しているのと同じ、軽量で撃ちやすいM16A1アサルトライフルだった。
 その光景は、施設の見張り矢倉に立つコルトに、拡大スコープ越しに捉えられていた。
「こちらコルト。監視開始から五時間が経過。予定通り作戦を開始しよう」
「こちらアル、了解。作戦開始」
 無線機に向かってそう言うと、アルはタイラーの肩を叩いた。
「聞いたな、タイラー。行くぞ」
「了解」
 タイラーはそう答えて、右脚のレッグホルスターからサプレッサー付きの拳銃を抜いた。

 ベトナムでのあの忌々しい事件の後、陸軍にFOX HOUNDの一部隊が設立されて4年が経ったその日、彼らに初の任務が与えられた。
「コロンビアの麻薬工場の調査だ」
 そう言ってアルは机の上に資料を置いた。
「情報によると、この麻薬工場を取り仕切っている連中が、裏である傭兵部隊から数人の兵士を雇っているらしい。今回の任務は、麻薬カルテルと傭兵部隊との繋がりを調査する事だ」
「麻薬カルテルが傭兵を雇うといった事なら、他にいくらでも前例があるぞ」
 タイラーはそう言って資料を手に取った。
「コルト、タイラーと資料の三枚目を見るんだ」
 コルトはそれを聞くと、タイラーの取った資料を開いた。タイラーはそこにあった写真を見つめた。
「この連中、M16アサルトライフルを装備しているな。鳥籠型ハイダーだ、ベトナム戦争で改良されたM16A1だな。しかも戦争後に配備された30連弾倉を取り付けてある」
「それだけじゃない、マガジンポーチも最新の物だ。しかも全員が覆面を被って顔を隠している。立ち姿にも洗練されたものがある……相当の強者だぞ」
 コルトはタイラーの見ていた写真を指差して言った。
「武装に関しては、他にもM60軽機関銃や英軍のFALを装備している奴も居るそうだ。そして屋内を警備する兵士はドイツ製のMP5サブマシンガンを装備している」
 アルはそう言って、写真を数枚出した。
「MP5か……ドイツ製のクローズドボルト式短機関銃だな。9mmパラベラム弾の撃ち易さも伴って、従来のオープンボルト式短機関銃とは一線を画す射撃性能を誇るサブマシンガンだ。この前の射撃訓練で試用したものだ」
 そう言ったアルに、タイラーが付け加えた。
「確かに射撃性能は高いが、整備性は悪い。ローラーロッキングシステムのお陰で、定期的な部品交換も必要になる。野戦には使い辛い銃だが……しかし屋内戦では高い性能を発揮する」
「高価な銃だ、やはりこの連中はただ者じゃないな」
 コルトはそう言って、写真を拾い上げた。
「そこで俺達の出番という訳だ。作戦は本日午後四時から開始される。午後三時までには全員スニーキングスーツを着用し、飛行場に向かえ。装備はMk22麻酔拳銃とスタンロッド、ソリトンレーダー、それと捕虜を確保した場合に備えてフルトン回収システムも携行。コルトはそれに加えて狙撃銃を持ってくれ。あと、夜間偵察任務だ。NVG(暗視ゴーグル)も必要になるな」
「了解」
 そう言ってタイラーは立とうとしたが、そこでアルが付け加えた。
「ああ、分かってると思うが潜入任務だ。発見されると不味い事になる」

 闇の中を黒っぽい色のスニーキングスーツを着て音も無く進み、タイラーとアルは施設の裏口に到達した。アルは茂みの中に伏せ、NVGを装着して敵の位置を確認した。タイラーはその傍でソリトンレーダーを確認する。
「敵兵を二名発見……裏口の前を行き来している」
 アルは二人の敵を指差して言った。
 彼らの使用するNVGは複合機能型で、通常の暗視機能を使用しながら、視野内の熱源を感知して白っぽく浮き上がらせる。夜間の戦闘や、ジャングルでアンブッシュしている敵を相手にする場合は特に強力な装備品になる。ステルス兵器や高度なカモフラージュまでも一瞬で見破る事も出来る。
「よし、レーダーにも同じように表示されてる。これはなかなかの優れものだな」
 タイラーはレーダーを見て言った。レーダーには赤い矢印とそこから広がる円錐が映し出されていた。
 このソリトンレーダーは最近になって開発された試作品で、同高度の一定範囲内の敵位置・敵の視界・味方の位置・地形を表示する事が出来る。潜入任務においては従来のサラウンドインジゲータとは比べ物にならない程の性能を発揮するが、その代りこちらは発見された場合即座に使用不能になる。原理は説明されなかったが、あと30年もすればさらに広域・高精度化されるであろうという事だった。
「タイラー、向かって右の奴を頼む。俺は左を」
 アルはそう言って銃を構えた。
「了解」
 タイラーは応え、銃を構えた。
「3……2……」
 1が出る瞬間、アルとタイラーのMk22から麻酔弾が飛び出し、見張りの頭に突き刺さった。彼らは間もなく倒れ、寝息を立て始めた。
「邪魔者は眠らせる……弾薬が十分なら、最も無難な潜入方法だな」
 タイラーはそう言って、ソリトンレーダーを再び確認し、間近に敵が残っていない事を確認した。
「こちらアル。コルト、これより裏口から侵入する。そっちから見えるか?」
「こちらコルト。よく見えてるぞ」
 コルトはNVG越しにM21マークスマンライフルの照準器を覗いていた。
 彼のM21は近接戦闘に対応出来るように銃身を切り詰め、さらにハイダーを改良してサプレッサー(消音機)を装着していた。命中精度は若干低下するが、潜入任務に使用し、近接戦闘にも遭遇する可能性を考慮すれば悪くない改良だった。実際、スコープの倍率を最低にすれば、大勢を相手にしても対応出来る程になっている。
「ん……!待て、二階の窓に一人居る。そのまま進むと見つかるぞ!」
 無線機から聞こえたコルトの声に、タイラーとアルは即座に反応し、地面に伏せて建物の二階を見上げた。
「コルト、敵は窓ガラス越しにこちらを見ているが、俺達を見つけてはいない。そっちから狙撃出来るか?」
 タイラーは無線機越しに、コルトに問いかけた。
「こちらの射線も窓ガラスに遮られている。撃っても窓ガラスの割れる音で敵に存在を知らせる事になるな……」
「了解。アル、タイミングの勝負だぞ。奴が向こうを向いた隙に二人で奴の真下……裏口ドアの前まで行くぞ。スネークインだ」
「了解、スネークイン」
 そう言ってアルはタイラーの肩に手を当て、呼吸と体のリズムを合わせた。タイラーが動き出せば、すぐにアルがその後ろに付いて立ち回る。一列になって行動するスネークフォーメーションだ。そして彼らのような潜入工作員は、最適なスネークフォーメーションを実現する為に互いを同調させる事を、スネークインと呼んでいる。
 数十秒ほど後に、敵はふいと後ろを向いた。それを見たタイラーは即座に姿勢を低くしたまま駆け出し、ドアの下に向かって前転しながら飛び込んだ。そして、アルはまるでタイラーと糸で縛られたように同調して動き、同じように敵の死角に飛び込んだ。
「コルト、敵の様子はどうだ?」
 タイラーは無線機に向かって問いかけた。
「どうやら背中を掻いてたようだな。お前達に気付いた様子は全く無い」
「うまくいったらしいな、タイラー」
 アルはタイラーから離れ、ドアの反対側に着いていた。
「だが、このドアの向こう側の部屋に巡回している兵士が一人居る。レーダーに映ってる」
「手の届かない所に敵兵か……おびき寄せよう。俺が囮になる」
「了解」
 アルはドアのすぐ傍に張り付き、片手でノックするように壁を叩いた。ドアは外側に開くようになっており、アルの居る場所はドアが開いた直後は敵の死角になる場所だった。
「何だ……!」
 中で敵が音に気づき、呟いた。そして、足音と同時にソリトンレーダーに映る矢印が近付いて来た。タイラーもアルと同じように、壁にへばりついた。
 直後にドアが開き、アルの居た側を向いて敵が出て来た。タイラーには気付かず、ドアを回りこんでアルが音をたてた場所を確認しようとしている。
 タイラーは壁から離れ、素早く敵の首に抱きついた。
「ぐっ……」
 敵が大声を出す前にタイラーは左胸のスタンロッドを左手で抜き、敵の首に突き付けた。先端を肌と紙一重のところまで近付け、小声で脅す。
「貴様らは何者だ。言えば命だけは助けてやる」
 殺気の籠った声だったが、敵の答えは彼の期待するものではなかった。
「クッ……敵に言う事など無い」
「そうか、なら……!」
 タイラーはスタンロッドを敵の首に垂直に突き立て、横にかっさばく動作をして見せた。
「ひ……えぇ……!」
 敵は目をきつく閉じ、震え上がった。だが実際にはスタンロッドは彼の首に触れてさえいなかった。
「もう一度聞く。貴様らは何者だ」
 敵は、今度こそ震えながら答えた。
「俺達は……雇われただけだ……」
 そこまで言って、敵はついに失禁した。彼のズボンが生暖かい液体によって湿っていくのが、タイラーに感じられた。
 タイラーはスタンロッドを左胸の鞘に戻し、敵の首を掴んだまま、敵と自分の体重をうまく利用して敵の体を投げ、壁に叩きつけた。
 敵は背中から後頭部までを強打し、そして地面にくずれ落ちて気絶した。
 直後にアルは飛び出して内部に踏み込み、部屋中を素早く見まわした。敵の姿は無い。
「タイラー、大丈夫だ。近くに敵は居ない」
 タイラーはアルの後ろで、倒した敵の所持品を探っていた。
「部屋を守っていてくれ。こいつから何か身分を証明するものが見つかるかもしれない」
「了解」
 アルは銃口を工場の生産ラインに繋がる通路に向けたまま、タイラーから声がかかるのを待った。
「予備の弾薬と携帯糧食、無線機に……めぼしい物は無いな。こいつらは一体何者なんだ」
 タイラーは敵の装備をくまなく探ったが、身分証明書の類は見つからなかった。認識票さえも見つからない。尤も、タイラー達の潜入部隊も認識票を持たずに出撃するが。
「ん……待った。このマークは……?」
 タイラーは敵の肩章に描かれているマークに目をつけた。ひび割れた骸骨の顔が描かれ……いや、よく見れば地球上の大陸を繋ぎ合わせたものでもある事に気付く。そして、その上に「MILITAIRES SANS FRONTIERES(国境なき軍隊)」と書かれていた。
 もう一度敵の装備品を見てみると、至る所にそれを略した「MSF」という文字が書き込まれている。どうやらそれが彼らの部隊らしい。
「うぅ……」
 装備品を漁っていると、敵が目を覚ました。タイラーは即座に拳銃を抜き、敵の鼻先に突きつけた。
「動くな。そのまま伏せて両手を頭の上に置け」
「ヒィ!?」
 敵は驚き、言われた通りにした。タイラーは彼の頭に銃口を向けたまま引き金を引き、その後頭部に麻酔弾を撃ち込んだ。
「よし、終わった。コルトに連絡して先に進むとしよう」
 タイラーはアルの傍まで近寄って、無線機越しにコルトへ呼びかけた。
「こちらタイラー。施設への潜入に成功した。そちらの状況はどうだ?」
「見つかってはいない。施設へ潜入したのなら、俺も施設天井上に上って天窓から援護する」
「了解、俺達は麻薬製造ラインに侵入する」
 タイラーはそう言って、アルと目を合わせた。
「よし、行こうぜ。奥に進んでみれば何か分かるかもしれない」
「見つかったらどうする気だ……?」
 アルはソリトンレーダーを覗いた。
「中は警備が多い。簡単に潜入出来るとは思えない」
「見つかったらすぐに逃げ出すさ。スタングレネードを持ってくれば良かったな」
 タイラーはそう言って、Mk22拳銃を抜いた。
「鬱陶しい敵はこいつで眠らせてやればいい。4年前と比べると性能は格段に上がっている」
 彼の拳銃のサプレッサーは従来の太く長い円筒型ではなく、短い長方形型のものになっている。銃身が上側に位置するタイプなので、スライド側面やサイト上部にサプレッサーがはみ出す事も無い。
 使用する麻酔薬も改良され、よほど訓練された精鋭でなければ胴体に一発撃つだけでもすぐに眠らせる事が出来る。
「分かった、行ってみよう」
 アルはそう言って頷き、銃を構えてドアに手をかけた。音をたてないように、慎重に開いていく。
「クッ!」
 タイラーは一瞬息を呑み、即座に発砲した。サプレッサーに押し殺された銃声が鳴り、丁度ドアの方を向いた敵が倒れ込んだ。
 その時にはアルはドアを開き切っていた。タイラーはすぐにドアを潜り、ソリトンレーダーと自分の目で敵の警備状況を把握した。その後ろにアルが続いて侵入する。
 だが、それは二階を警備していた敵兵に見られてしまった。上層・下層はソリトンレーダーの致命的な死角でもある。
「畜生……!」
 直感によってタイラーが敵の方を向いた時には、彼の口は動き始めていた。
「敵しゅ……」
 敵が非常事態を告げる前に、ヘルメット越しに彼の頭に銃弾が突き刺さった。ヘルメットが跳ね、敵兵はそこに倒れ込んだ。
「ふぅ……危なかったぞ」
 無線機越しにコルトの声が聞こえた。
 彼は屋根の天窓の一つに穴を開け、そこから射撃していた。そこからなら天井の照明器具のお陰で、サプレッサーによって抑えられたマズルフラッシュは殆ど見えなかった。つまり敵にも発見され辛い。
「助かった……もう少しで発見されるところだった」
 アルはそう言って、他に敵が居ないか見渡した。
「幸い、今の射撃に気付いた兵士は……あっ!」
 コルトは照準器越しに、他の兵士が仲間の異常に気付いた事を見抜いた。彼は倒れている仲間に近づき、近付いてその様子を見ると、すぐに声を上げようとした。
「クソッ!」
 コルトはその兵士の胸に一発撃ち込んだ。弾は直撃し、兵士は後ろに吹っ飛んで倒れた。辛うじて死んではいなかったが、意識を失っている。一分と持たずに絶命するだろう。
「お見事。では先に進むとしよう」
 タイラーはそう言って、しゃがんだまま製造ラインの中を突き進んだ。ソリトンレーダーに映る敵と遮蔽物の情報を頼りに、的確に潜入ルートを選んでいく。アルはその後ろに続いた。
 数分と掛からず、彼らは施設の金庫に近付いていた。
「こちらタイラー。金庫入口に到着。中に入ろうとする敵が居たら教えてくれ」
「コルト、了解。もし何かあったら屋根から表側の歩哨を排除しておく。そこから正面入口までは近い。発見されるような事があったらこっちから逃げろ」
「了解」
 タイラーはそう言って、アルの方を向いた。
「金庫に異常があれば敵はすぐに警戒し始めるだろう。ここを探したら脱出しよう。もし見つかったらコルトの言ったように正面玄関から逃げ出す」
「分かった。行こう」
 タイラーとアルは顔を見合せ、金庫内へのドアを開いた。
 膨大な量の書類や、各種の貴金属、そして紙幣の束が積まれていた。麻薬の袋も少し置かれていた。種類は分からない。
 タイラーはすぐにその中から傭兵部隊との契約書が無いか探り始めた。アルは彼の後ろに付いて、ドアに銃口を向けて警戒した。
「くっ……量が多すぎる。全て探っていると敵に見つかるぞ……」
 タイラーは書類の山に手を突っ込みながら言った。まったく、初陣でこのように困難な任務に行きあたるとは……いや、予想はしていた事だったが。
「ん……何だ」
 金庫の空いたドアに気付いた敵兵が、そこから中に入ろうとした。だがサプレッサー付きの拳銃から麻酔弾が発射され、彼の頭に突き刺さった。
 アルは命中を確認すると、すぐにスライドを引いて次弾を装填しようとした。だが、何と敵は二人組で来ていた。
 もう一人がドアの前に躍り出て、叫んだ。
「誰だ!」
 アルは引き金を引き、麻酔弾は敵の頭に見事に命中したが、スライドを引く動作によって遅れが生じ、敵はもう既に叫び声を放っていた。
「タイラー!まずいぞ!」
 振り向いて臨戦体勢をとっていたタイラーに、アルが怒鳴った。
「畜生……コルト!」
「任せろ!」
 タイラーの声にそう応えると、コルトは屋根の端に移動し、下を見下ろして銃を構えた。中の異常に気付いた二人の兵士のうち、片方の頭を吹き飛ばし、もう片方はこちらに向かって走って来ているその脚を撃ち抜いた。相手の動きが止まっている間に、もう一発を頭に送り込む。敵は完全に絶命した。
「外の歩哨を排除した!すぐにでも出て来い。俺も地上に降りる!」
 コルトの声を聞きながら、タイラーはMk22の銃弾を目の前に居た兵士の頭に、走りながら撃ち込んだ。そしてスライドを引き、正面玄関の前に立って銃を構えた兵士を撃った。
 アルはその後ろにくっ付いて動き、後方の敵に対してMk22のスライドを引いては射撃していた。
「コルト!正面扉を開けてくれ!」
 タイラーは扉のすぐ近くの遮蔽物に飛び込むと、無線機越しに怒鳴った。すぐにドアが開き、コルトが姿勢を低くして銃を構えているのが見えた。
「援護する!来い!」
 コルトの声を聞いて、タイラーは土産とばかりに金庫内で見つけた手榴弾を掴み、敵の方に投げつけた。
「行くぞ!」
 爆音を背にして、タイラーとアルはドアの向こうまで全速力で駆けて行った。コルトは銃を構え、彼らの顔と紙一重の所に銃弾を送り込み、向こう側でLAW式ロケットを発射しようとした敵の頭を撃ち抜いた。
「お見事。さぁ逃げるぜ!」
 タイラーはコルトの横を通り過ぎながら言った。アルがその後ろに続きながら後方に手榴弾を思い切り投げ、コルトは後ろを向いて走りながら弾倉に残った弾を撃ち尽くし、二人に続いた。

 数時間後、彼らは近くのジャングルまで到達していた。
「やられたな……初の単独作戦が失敗に終わるとは……」
 アルは携帯糧食を齧りながら呟いた。スニーキングスーツには至る所に擦り傷が出来ている。
「いや、失敗ではない」
 タイラーは野戦ノートに何やら書き込みながら言った。
「今回の任務は傭兵部隊の調査だ。なかなかの収穫だったぜ」
「だが、契約書は見つからなかった」
「奴らの部隊の名前が分かった。兵士の戦闘服や携行品に縫い付けてあったぜ。売り込み好きな奴らだな」
「奴らの本拠地は?」
 衛星無線機を片付けながら、コルトが言った。
「分からん。だが、他の関連事実を調べていけば導き出せると思う。こうも装備の充実した、錬度の高い傭兵部隊はそう居ない」
 タイラーはそう言って、携帯糧食を取り出した。
「こんな状況でなければ火を起こして、焼いて食べるんだがな。このままでもいけるが、こんがり焼け目を付けるとさらにうまい」
「おいおい、食ってる場合じゃないぞ。そろそろ救援が来る」
 コルトがそう言って、腰のバッグを叩いて見せた。
「ちぇっ」
 タイラーは携帯糧食をバッグに戻した。
「しかし、まだ来ないのか?早くしないと夜が明けちまう」
 タイラーは不満そうに言った。
「さっき衛星無線機で信号を送った。そろそろ来るだろう」と、コルトが応える。
「ガンシップか?それともヘリか?」
 アルは携帯糧食をバッグに戻しながら聞いた。
「ヘリだ。目立つガンシップをよこす訳にもいかないだろう」
 コルトの言ったとおり、ガンシップは目立つし、レーダーにも捕捉されやすい。その点ヘリならこの辺りをよく飛ぶので、警戒されにくい。
「おっと、耳をすませろ。早くもお迎えが来たらしいぜ」
 コルトはそう言って、無線機に向かって話し、発煙筒を取り出した。ヘリの到着地点を示すためのものだ。
「ふぅ……任務終了か」
 アルは荷物を全て持ち上げ、溜息をついて言った。
「いや、違うな。まだ始まったばかりだ」
 タイラーはアルの目の前に立って言った。
「奴らの尻尾を掴んだ。しばらくコロンビア国内に留まって、本部と連絡を取りながら奴らの正体を探る」
「タイラー、偵察は終わったんだ。本部も直接的な関与はしたがらないだろう」
「いや、本部は奴らを放ってはおかない筈だ。考えてもみろ。奴らの充実した武器、装備、そしてあの錬度。あれだけの技術と人数なら、俺達FOX HOUNDをも壊滅させかねないぞ」

 その時、ヘリが舞い降り、コルトがタイラーとアルを呼んだ。タイラーはアルの顔から眼を離し、ヘリに向かって走った。アルは一瞬タイラーの背中を見つめていたが、すぐに気を取り戻して彼の後を追った。